やまねこの物語

日記 バレエ週間始まる

2004年3月10日(水)からバイエルン州立劇場でバレエ週間が始まった。約10日間で10の演目がまとめて上演される。今回、縁あって10日初日に上演(初演)される「ポートレート・Mats Ek」という作品のゲネプロ(総稽古)を観る機会に恵まれた。僕は今までで劇場においてバレエを観たのは片手に数えるほどしかなく、バレエに関して全く知識がないが、自分が感じたものを忘れないために印象を記してみた。

この「ポートレート・Mats Ek」という作品はスウェーデン人の Mats Ek という人が振り付けをしているもので「A Sort of...」「Apartment」という2つの作品で構成されている(休憩1度を含めて2時間のプログラム)。どちらの作品もクラシックバレエではなく、モダンバレエといったものだろうか(少なくとも衣装はいわゆるクラシックバレエのようなものではなかった)。前者の方はピアノを中心とした音楽で、音楽的にも踊り的にも何か詩を読んでいるような感じで淡々と舞台が進んでいった。僕はそのストーリーも知らないので自分で色々と想像しながら観ていたが、もしかするとストーリーは存在しないのかも知れない。そうではなくて何かある一瞬を表現しているようにも感じられた。逆に後者の方は瞬間ではなく、(そのタイトルからか)日常の中から切り取られた、ある限られた空間、時間を表現しているように感じられた。

いずれの作品も踊りは飛ぶ・跳ねるといった舞う感じではなく、どちらかといえば手先をバタバタしているような印象が残っている。つまり舞台の広さを使って優雅さや雄大なスケールを表現すると言うよりは逆に窮屈さを感じたこともあった(そういえば演出で女性ダンサーをスーツケースに入れて運ぶシーンもあった)。特に前者では何か、もどかしさに似たものを覚えた。これは制作者の意図するものなのか、それとも自分だけがそう感じたのかは分からない。いずれにしてもこの日は観客がいるものの、総稽古なので出演者は(無意識的に)100パーセントのものを出し切っていないのかも知れない。

ところで先にこのバレエはモダンバレエのようなものと書いた。あくまで自分の印象ではあるが、クラシックバレエは踊る時の背筋のイメージから、直線が天に向かって垂直に延びているという感じがするが、今回観たものは直線ではあるが天に向かって延びるのではなく、色々な方向に向かって延び、しかも他の線と交差して不規則な模様を描いている印象があった。

音楽も生演奏(舞台後方で演奏)ではあるがスピーカーを通して音が出されていた。後半の Flaeskkvartetten は出演者表の所にスウェーデンのロックバンドと紹介されてあり、彼らはサンプラーなどを利用した演奏をしていた。スピーカーを通しているせいか音楽は生の迫力というより、何か人工的に造られた印象を与え、そういったことから舞台を観ているにもかかわらず、何か映像を観ているような気がしていた。その意味では、このバレエは立体的というより平面的な印象を受ける。

僕にはこのバレエがどのような位置付けをされているのか、また例えばダンサーのレヴェルといったものも全く分からない。そういえば僕はバレエをあまり観たことがないので全く気が付かなかったが、一緒に観に行った友人によるとダンサーは革靴のようなものを履いて踊っていたとのこと。音楽的にも演出的にも斬新なものとなっているようである。といっても、こういった形式がいつからあるか、どれほど斬新なのかは分からないが、いずれにしてもクラシックバレエとは違ったジャンルとなっているように感じられた。

ただ僕が観たものはゲネプロであって本番ではないので、本番を観るとまた違った印象を受けるかも知れないし、2度目と言うことで今回とは違う視点で観ることが出来るかも知れない。以上のこと、あくまで自分が観た感想である。


追伸
(のつもりが長くなってしまった)

バイエルン州立劇場で「ポートレート・Mats Ek」のゲネプロを観た後日、3月14日(日)今度はゲルトナープラッツ州立劇場でバレエを観る機会に恵まれた。これはバイエルン州立劇場でのバレエ週間とは関係がないようだが、バレエということでここに記すことにした。この日は「4」という作品が上演された(休憩無しで約1時間10分)。

上演前の舞台上には大きな太鼓、暖簾のように幾つもの筋の入った背景(緞帳)があり、また舞台上からオケピットに足を投げ出して座っている白塗りの人がいた。彼は上演前から座りながらの動きがあり、時計をはめていないにもかかわらず腕時計を見る仕草を何度もしていた。彼の動きは「もうそろそろ舞台が始まるのかな」とこれから始まる舞台を楽しみにしてる観客の行動を代弁しているようでもあった。(しかし逆にその行動は観客に、時間を気にするように、と促しているようにも見える。)

そして指揮者が登場し、バレエが始まったが、そのメロディや音色などまるで日本の伝統音楽のようで、そこに鳥の鳴き声の音が入っており、ちょうど一日が始まる朝のような雰囲気でもあった。踊りの方は、クラシックバレエではなく、いわゆるモダンバレエというものだろう。しかし動きはクラシックバレエの要素を随分採り入れたもので、動きにダイナミックさと、しなやかさが感じられた。先日観たものは上で直線が幾つも交差していると書いたが、このバレエはどちらかといえば、そのしなやかさからか直線と言うよりは曲線を描いていた。踊りも舞台の左右から中心で踊られることが多く、また並びが輪になっていることもあり、それ故曲線と感じたのかも知れない。

舞台が始まって最初は日本風だと書いたが、ここでダンサーの Mikiko Arai さんが「さくらさくら」を歌われた。アカペラで歌われたその歌はスピーカーを通して劇場内に響いていたが、非常にゆったりとしたものの中に緊張感が漂っていた。舞台は時々ジャズのスケールを採り入れながら、徐々に変わっていき、いつの間にか音楽は赤道直下の国々で演奏されるような陽気なものに変わっていた。照明もオレンジ色を中心としたもので眩しい太陽をイメージしているものとなっている。踊りもそれまで個々のものであったのが、全員で輪になっていわゆる南の楽園風といった感じであった。その後は舞台上にトランペット、パーカッション、コントラバスが乗り、ジャズの演奏が始まり、同時に照明も暗くなり何処か夜の雰囲気といった感じになった。踊りもそれに併せて大胆なものから繊細なものへと変化していく。

その後はジャズから、弦楽器がピアニシモで奏でる音楽に変わっていった。雰囲気も静けさを表現しているように感じられる。同時に徐々に日本風になり、「さくらさくら」が歌われた。その後は日本風を絶えずフォルテで奏でるような雰囲気となった。この舞台、シーンは日本、南国、ジャズ、静寂(少し弱い日本)、少し強い日本と5つに僕には感じられた。最後の4つ目、5つ目は1つ目の日本風に通じるところがあり、そういった意味ではこの「4」は春夏秋冬、春〜で四季を表しているとも言えるし、また朝昼夜、朝〜と一日を表しているのかも知れない。

そういえば最後に出演者表を見るとトランペットを吹いていた Johannnes Faber という人がこのバレエの音楽を手がけていると分かった(振り付けは Philip Taylor)。この人(Faber氏)は最後の舞台挨拶で、両手を併せてアジア人がお辞儀をするような仕草で観客の声援の応えていた。「さくらさくら」や最初の暖簾など、またよく耳にしたパーカッションが仏壇に置いてある鐘(?名前が分からない)のような雰囲気を出しており、この Faber 氏は日本に影響を受けているのが分かる。そういった意味ではこの「4」は輪廻転生を表現しているのかも知れない。

ところでこの「4」は今日が最終公演日であったが、残念なことに観客数が非常に少なく、劇場が5階席まである中、1階と2階席だけに全ての観客を入れ、それより上は閉鎖されていた。そういえば何故か僕の後ろの列は小さな子供とその母親という組み合わせが多く見受けられた。子供はバレエが始まる前は少し、はしゃいでいたが、舞台中は徐々にその声も小さくなっていった。それだけ舞台に見入っていたのだろうか(それとも寝ていたのか)。舞台が終わってから友人と一緒に、このバレエに出演していた日本人の Mikiko Arai さんと Yutaka Nakata さんに挨拶をすることが出来た。このバレエは、バレエを全く知らない僕でも楽しむことが出来た。誘ってくれた友人に感謝!

更に追伸

先日、縁あってミュンヘン・バレエ・アカデミーの試験のお手伝いをさせていただいた。その際、上記の「ポートレート・Mats Ek」について伺うと、Mats Ek という人は斬新なものをするということで今話題になっている人物であるということだった。そういったことを聞いてから劇場に行くとまた違った印象を受けたかも知れない。ところでバレエ・アカデミーの試験の日、スタジオで僕も授業と試験の様子を見守っていたが(といってもスタジオ内ではなく2階から)、息づかいが聞こえてくるようなその動きには圧倒されるものがある。外は3月末には珍しく除雪車が出るほど雪が積もっているが一足先に春が来た。この3月は僕にとって普段あまり馴染みのない、バレエに接する機会が多く、そういった意味では僕にとってもバレエ週間(月間)となった。
 

以下の写真は全てバイエルン州立劇場での「ポートレート・Mats Ek」ゲネプロ終了後の写真

「A Sot of...」公演後の舞台挨拶

「A Sort of...」公演後の舞台挨拶

「Apartment」公演後の舞台挨拶

「Apartment」公演後の舞台挨拶

ヴィデオ撮影

ヴィデオ撮影

カメラ撮影

カメラ撮影

(2004年03月14日)

 

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