1933年5月10日、この日ドイツ各地で焚書が行われた。その日の午後8時頃、ミュンヘン大学(ルートヴィヒ・マクシミリアン大学)構内の中庭「リヒトホーフ」でも、ミュンヘン大学やミュンヘン工科大学の学生、大学関係者、大臣等出席のもと、その「国民革命的な式典」が催された。そしてここから市内ケーニヒ広場に向けて学生による松明行進が行われ、高く積まれた本の山に火が放たれた。そこにはドイツ民族を堕落させる作家として、ハインリヒ・マン、シュテファン・ツヴァイク、エリーヒ・ケストナー、カール・マルクス、ジクムント・フロイト、ハインリヒ・ハイネ等の書物があった。この焚書行動はドイツ中の大学で行われ、この一晩だけで2万冊以上が灰にされたとのこと。またちょうどこの日、アメリカ・ニューヨークで10万人を超える人々が反ナチスデモを行った。
第三帝国の思想統制により、ドイツ国内で出版が禁止された作家、作品の数が1938年には、565人、4000冊となり、それらは販売禁止というだけでなく、図書館からも処分されることとなった。またバイエルン州立図書館にある書物の中でも、ユダヤ人作家、第三帝国思想に反する作家の作品5500冊は図書館から別の場所に移された(戦後、元の場所に戻されている)。
2003年、ケーニヒ広場の焚書が行われた場所でそれに関する催しがなされ、ミュンヘン大学構内でも当時の焚書に関する展示や講義が行われた。そして2004年5月から当時の式典が行われたリヒトホーフのその場所で焚書を示す展示が始められた。またこの催しと同時にリヒトホーフ内に、反ナチスグループ『白バラ』メンバーのショル兄妹(1943年処刑)の姉であったインゲ・アイヒャー・ショルの遺産の展示も始められた。1988年に亡くなった彼女の、白バラのメンバーに関する遺産(書類等)は7.5トンにも及び、それらは現在、ミュンヘンの現代史研究所に保管されている。今回の展示ではその一部が公開された。
その展示の仕方は、白バラのメンバーがビラをまいたことを思い起こさせるような、上部から吊されたものとなっている。人目をひく、その展示の仕方のためか、見上げている人、また2階、3階から見下ろす人の姿も見受けられる(それぞれの階には展示物の一覧表がある)。
ところで2004年5月1日、欧州連合(EU)に中・東欧など10カ国が新たに加盟し、EUは25カ国に拡大した。そのことによって今まで以上に人や物の移動が増えることが考えられる。同時に外国人に対する問題なども増えてくるかも知れない。そういえば先日、ミュンヘン市の外国人諮問委員会の選挙で投票をした(ミュンヘンに住む多くの日本人に投票権があった)。ドイツの外国人に対する問題は、ドイツ側だけで話し合われるのではなく、外国人側にも(どの程度かは別としても)主張出来る場があるというのは、ドイツが過去から抜け出そうとしていることの一つの表れであるとも言うことが出来る。同時にこれからの国際社会に置いてドイツの立場を明確にしようとしているのかも知れない。言い換えればそこにドイツの強さを見出そうとしているとも見える。ドイツの未来、それを考える際、今回の焚書のモニュメントや白バラに関する展示を役立たせて欲しいと願う。
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