やまねこの物語

日記 小金持ち
「小金持ち」、誰がそのように言い始めたのかは知らないが、結構みんな言っている。小金持ちは、すなわち、紙幣をいっぱい持った「大金持ち」ではなく、ドイツマルクの補助通貨ペニヒ pfennig の硬貨をた〜くさん持っている人のことを言う。

日本で一般的に流通している硬貨は1円、5円、10円、50円、100円、500円である。ドイツでは、例えばアメリカドルがドルとセントで表すように、ドイツマルクとペニヒで表す。1マルクは100ペニヒ。ドイツの硬貨は、1ペニヒ、2ペニヒ、5ペニヒ、10ペニヒ、50ペニヒ、1マルク、2マルク、5マルクとある。写真を見てもらえれば分かると思うが、実によく似ている。日本の硬貨は、例えば、真っ暗な中でも触っただけで区別が出来るように、材質、穴あき、ギザ付きなど分けられている。だがドイツの硬貨は、重さの違いはあるが、普通、触っただけでは分からない。また見た目でも区別しにくい。硬貨の表側は、1ペニヒ、2ペニヒ、5ペニヒ、10ペニヒと全て同じデザインだ。その上、1マルクと5マルクの硬貨の表側が2マルクの裏側とよく似ている。

これだけ硬貨が似ていると、買い物をするときに大変困る。例えば食料品などを買う時のレジの際、お店の人は、例えば、「12マルク78ペニヒ」と丁寧に言ってくれるわけではない。普通(というか、ドイツ語で)は「12マルク78」と言う。といっても日常では「〜マルク」とも言わずに、ただ「12.78」ということが多い。また値札やレシートも同じように表示される。つまり「〜ペニヒ」と表現はしない。その上、ドイツ語の数字の数え方は日本語や英語と比べると少し違っている。例えば「25」と言うとき、日本語では「二十五」と前から発音する。英語でも「twenty-five」と、これも前から発音する。だけどドイツ語では「25」を「5 と 20」と発音する。だからドイツに来て生活に慣れるまでは、数字の数え方にも困ってしまう。そんなだから、レジで「12.78」と言われてもすぐに反応できない。「え!?いくら?」と聞き直して、頭で数字を整理しなければならない。

それに夕方のスーパーなど、レジに10人ぐらい並んで待っていることがよくある。日本のスーパーなどで、レジの際、長蛇の列が出来ていると、やはりみんな、すぐに済ませようと考える。「1円、2円、3円・・・」と小銭を数えていたら、やはり後ろの人に対して迷惑だと考える(と思う)。その考えは日本人がドイツに来ても簡単にかわることはない。ドイツ語の数字の数え方に慣れていなかったり、ヒアリングの方に自信がなかったり、後ろの人に迷惑がかかる〜と思ってしまったり、それらの理由で、結局、大きな紙幣を出してその場を逃れようとする。特に、ヒアリングに自信がないと、必要以上に大きな紙幣を出してしまう。それなら値段を間違えることはないから安全(?)だが、おつりがいっぱいになる。買い物をする度、同じことをしてしまうと、財布の中は小銭でいっぱいになってしまう。これが「小金持ち」だ。でもでもレジでよく見ていると、ドイツ人は後ろにどんなに人が並んでいようとも、ちゃんと「12マルク78」と払っている。日本人がドイツで生活をはじめるとき、たいていの人は最初、小金持ちになるそうだ。特に、区別しにくい、1ペニヒ、2ペニヒ、5ペニヒが山のようになる。小金持ちにならなくなったら、ドイツの生活に慣れたということだ。
ドイツの硬貨裏側 ドイツの硬貨裏側
ドイツの硬貨表側 ドイツの硬貨表側
 (2000年2月16日)
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