やまねこの物語

日記 父の日フェスト

僕は友人と一緒にベビーシッターをしている。ベビーシッターといっても6才の男の子を夕方、幼稚園まで迎えに行き、ご家族の方が帰ってこられるまでお留守番というもので、赤ちゃんの子守をするのではない。その日は僕が当番で、僕はいつものように幼稚園にルーカス(仮名)を迎えに行った。いつもは迎えに来た親と子供が手を繋いで帰っていく姿を目にするが、この日は子供を迎えに来たお父さんは幼稚園の中に入っていき、そのまま姿を消した。誰も子供を連れて建物から出てこない。まるで「そして誰もいなくなった」と言う小説タイトルのように、周りにいた人(迎えに来た人)は建物の中に吸い込まれていき、僕だけ幼稚園の建物外(敷地内)で一人寂しく立っていた。

中で一体何が行われているのか。建物の中におそるおそる足を踏みいれると、中庭にはビアガーデンのようなテーブルと長椅子が並べられてあり、そこに何人ものお父さんが座っていた。今日はいったい何なのか、とそんなことを考えながら友人にご家族の方から何か聞いてるか伺うと、知らないという答えが返ってきた。中を覗いてみても何が行われているかさっぱり分からず、場違いな場所で僕は一人立ちつくしていた。

暫くすると僕の顔を知っている幼稚園の先生が出てきて「何してるの!勝手に入ってきて良いのよ!あなたを待っていたんだから」と言う。何が何かさっぱり分からず、まるでベルトコンベアに載せられた部品のように僕は中庭へと連れて行かれてしまった。建物の窓などを見てみると、そこには「父の日フェスト」と書かれた紙が貼られている。どうやらその日は夕方から父の日フェストが行われるようだった。全く知らなかった。そして暫くすると園児の歌が始まった。これは日本の幼稚園でも同じ光景だろう。ほとんどのお父さんがデジカメやビデオカメラを子供に向けていた。

僕はルーカスを見つけ、というより、ルーカスが僕を見つけ、僕の肩によじ登った。父の日フェストは、幼稚園の近くにあるグランド、おそらくそこは近くの幼稚園や小学校が利用しているらしく、既に多くの子供が遊んでいた、その場所で行われた。フェストの内容は、親子サッカーや二人三脚競争、トランポリンなど色々な遊びが行われ、先生方や子供たちがグランド内を駆け回っていた。僕の肩の上には、ずっとルーカスがいて奇声を上げていた。グランドを見てみると、子供と一緒になって遊んでいるお父さんや、ただ立って子供を見ているお父さん、カメラを向けているお父さんがいる。こういった光景はドイツならではのものではなく、おそらく何処の国でも同じ様子だろう。

そして1時間ほどグランドで遊んだあと、幼稚園に戻り、簡単な食事やビールが振る舞われた。日本でもやはりビールが振る舞われるのだろうか。僕が子供の時はどうだったか思い出せない。ところでこの幼稚園を見てみると、どうやらドイツ人でない子供もいるようだ。聞けば、この幼稚園は色々な国の園児がいるとのこと。ミュンヘンの幼稚園でも色々なところがあり、あるところは非常にしつけに厳しかったり、またあるところは例えば幼稚園の庭が土でなかったりと、それぞれに特色がある。ルーカスの通う幼稚園は外国人が多いとのこと。それ故、壁などには「外国人のお母さんのためのドイツ語コース」といった張り紙なども見受けられる。ただ子供にとっては、もしかするとドイツ人、外国人といった差があまりないのかも知れない。子供達はドイツ語で会話している。しかし子供の時から、そういった国際的な経験をすると、大きくなってから例えば外国人意識にも影響を及ぼしたり、また視野も広くなるかも知れない。また逆に(外国人の)子供のドイツ化といった意味でも意義があるかも知れない。

僕は自分の保育園・幼稚園時のことをあまり思い出せない上に、現在の日本の幼稚園がどのような教育をしているのか分からないので、ルーカスが通うこの幼稚園やドイツの他の幼稚園との違いは分からないが、いつもお迎えをしている時に感じるのは、お父さんが子供を迎えに来るのが多いと言うことだ。またこの日のフェストも夕方5時頃始まったにもかかわらず、多くのお父さんが参加されていた。それだけ家族で過ごす時間も多いと言うことだ。子供にとっても親にとっても家族で過ごす時間が多いというのは良いことだと思う。例えばドイツのクリスマスは家族で過ごすことが多いが、そういったことから家族の強さ、大切さを改めて感じさせられた。

以下の写真、僕はカメラを持っていなかったので、知人の方からカメラをお借りして撮影させていただきました。写真は父の日フェストが終わった後の様子。

父の日フェスト

父の日フェスト

父の日フェスト

父の日フェスト

(2004年05月20日)

 

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