2004年10月9日(土)12時30分から16時までバイエルン州立歌劇場が一般公開された。今年で3回目のこのイヴェントは、歌劇場の舞台で行われるテクニックショーを中心に、過去に行われたオペラのプログラムやポスター、CDなどが販売される蚤の市、オペラ映像の上映、歌劇場に所属する人のトークショー、これまでの舞台セットや衣装の展示などがなされ、また一般人が参加出来るものとして舞台衣装・化粧体験があった。
テクニックショーのチケットを購入し、当日、僕は友人と歌劇場を訪れた。歌劇場内は子供の姿が多く見受けられる。オペラの公演の中には家族向けのものもあるが、その回数はそれほど多いわけでもなく、これほど多くの子供が歌劇場内にいる風景は、いつもと違う劇場の雰囲気があって、まさしく一般公開といった感じがする。もちろん歌劇場内にいるのは子供だけでなく大人の姿も多い。特に過去のプログラムやポスターを販売しているところでは、熱心に目当てのものを探す人の姿が印象的であった。
テクニックショーは司会者が舞台装置関係者に伺うという形で、舞台上の様々な効果、例えば音響や照明だけでなく舞台移動や特殊効果が説明された。その都度拍手が起こり、中でも子供たちの喜んでいるのが、その歓声から分かった。そういえばこの舞台装置の説明では、リヒャルト・シュトラウスのオペラ「影のない女」のものが主に使われていた。話しは少しずれるが、バイエルン州立歌劇場で上演されている、現在のこのオペラの演出は市川猿之助によって創られたものである。市川猿之助演出の「影のない女」はバイエルン州立歌劇場による愛知県芸術劇場大ホールのこけら落とし(1992年)として上演された(サヴァリッシュ指揮)。
歌舞伎の要素を多分に採り入れた、この演出は元々ミュンヘンでまず最初に上演されるということだったが、舞台装置の問題などがあり愛知で初演となったとのこと。今シーズン、僕はゲネプロ(総稽古)を含めて3度観る機会に恵まれた。自分が日本人故か、聴衆の反応を気にしながらオペラを観ていたのだが、「とある東洋の島国」が舞台となったオペラのストーリーと非近代西洋的な演出が見事に重なり合った「影のない女」は、観客を見ていると非常に好意的に受け入れられた感がした。
ところでテクニックショーではスピーカーから大きな音量で音楽や効果音がならされたが、スピーカーから出る音の迫力という点に関しては最近の映画館の方が勝っているように感じられた。テクニックショーは約30分のプログラムであるが、それ以外に幾つかのショーが行われた。ただこちらはテクニックショーのチケット以外に、無料で配布されている特別チケットを入手する必要があり、僕と友人はそのことを知らなかったので、チケット売り場に並ぶと残っているチケットはトークショーのものだけだった。
トークショーは歌劇場所属の歌手、オーケストラの団員、舞台の靴職人、振り付け師など幾つかのものがあり、それぞれ30分のものだった。僕たちが手にしたのはバレエダンサーと歌手のもので連続してその二つのトークショーを聞いたが、ダンサーの方はそれほど(一般的に)馴染みがないのか、会場である王の間でも随分と空席が目立っていた。対して歌手の方は歌劇場で馴染みのある
Alfred Kuhn 氏だったので会場はほぼ満席となっていた。そのトークショーを聞いていたせいか、翌日観たオペラに彼の姿を見つけると、何処か知り合いが出ているような感じがして、少し嬉しく感じられた。
歌劇場内では、先にも挙げたが、過去の作品の舞台セットや衣装の展示などがなされ、興味深そうに見ている人が多かった。中でも自らが体験出来る舞台衣装・化粧体験はメイク室で身動きをとるのが難しいほどの人気があった。また変身した姿は写真室で撮影もなされ、良い思い出として保存することも出来る。こういった体験型のものやテクニックショーなど、この一般公開は普段、歌劇場とそれほど縁がない人でも楽しめるイヴェントとなっていた。そういった角度から近づくのもオペラの世界を知る一つのきっかけとなるかも知れない。
以下の写真は全て2004年10月9日(土)に撮影したもの。
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