5月に入って気温は29度まで上がった。それまで夏らしい暑い日が少なかっただけに、ようやくビアガルテンに相応しい季節になったかと思われた。しかしそれも長く続かず、5日(木、キリスト昇天祭で祝日)は最高気温が12度で、再び肌寒い日に戻った。雨も降っているせいか尚更、寒く感じられる。その5日、お昼頃から降り出した雨は夕方になる前には上がったので、雨の上がったニンフェンブルク城を散歩することにした。
トラムを降りてニンフェンブルク城の運河(水路)の側を歩くと、少し晴れ間が覗いていたものの、雨が降ったせいか、少し肌寒く感じられる。運河の水面が風によって波打っていたのを目にしたのも寒く感じさせたことの一つかも知れない。また運河に写る太陽が眩しく感じられるほどに天気が良くなったようにも思えたが、違う方角を見れば、どんよりとした重い雲が見え、再び降雨の気配が感じられた。
ニンフェンブルク城の建物に近づくと、ライラックの香りが風に乗って漂ってきた。紫色が一際人目を引く、それらの木々はこんもりと茂っており、側にある街灯や案内表示の看板を包み込むようにして咲いている。そのライラックが咲き乱れるところに近づくと、甘い香りが辺り一帯に拡がっていて、それが非常に心地良い気分にさせた。
宮殿の裏側に拡がる庭園に足を運ぶと、庭園の左右に拡がる森が見える。雨が降ったためかその緑が普段より濃いように感じられ、非常に奥深い森が拡がっているという印象を与えた。森の中に足を踏み入れると、それまでの雨によって冷やされたのか、少しヒンヤリとしている。こちらの方まで来るとさすがに散歩する人の数も少なく、ひっそりとした空間が拡がっていた。
そして暫く森の中を歩いていると、ポツリポツリと大粒の雨が降り出してきた。森の中では木々が傘の役目をしていたので、それほど強い雨だと感じなかったが、森を出るとザァーッという強い雨の音が周りの音を消すほどの、そして風があってまるで横から叩きつけるような、そんな強い雨が降っていた。幸い、その強い雨は一時的で、その後は普通の雨になった。ところで上手く言葉に出来ないが、雨には独特の匂いがあると思う。その匂いに雨で潤った木々の匂いが加わって、何とも言えない優しい香りが庭園の中に拡がっている気がした。
視覚的にも雨のせいか、森をはじめとする緑が非常に柔らかく感じられた。ただそれぞれの緑も独自の緑色に輝いていて、「緑」とひとことで言っても様々な緑があるのが分かる。また面白いのは見る角度が違えば、その緑色も違ったように見えることだ。雨の中では五感が普段よりも冴えるのかも知れない。
その後も雨は降り続いていた。森を抜けると宮殿の建物が見えるが、雨が降っていて霧が出ているのか、宮殿が浮いたように見え少しぼんやりとしている。それほど距離は遠くないにもかかわらず、霧ではっきり見えないため、庭園と宮殿の距離が実際の距離以上にあるように感じられた。この日は夕方前には晴れ間が覗いてきたので、その頃、散歩している人の姿は多かったが、この雨が降ってきた時には、散歩する人の姿も少なくなり、ニンフェンブルク城の庭園は冷たい雨音が響くだけの寂しい場所に感じられた。しかし逆に落ち着いた、何処か優雅な場所にも感じられた。そう感じた雨の中のニンフェンブルクだった。
以下の写真は全て2005年5月5日に撮影したもの。撮影した順に並んでいます。
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