| 「おでかけ」のページでも書いているが、日本からYさん、Hさんがドイツ旅行に来られた。そのYさんの目的の一つにベルリンとミュンヘンで行われる、あるアーティストのコンサートを観るというのがあった。そのアーティストの熱狂的なファンであるYさんはベルリン、ミュンヘンともVIPチケットを購入されていた。その様なチケットの存在を僕は知らなかったのだが、聞けばコンサートでは最前列で観ることが出来、VIP同士の交流の場なども用意されているということ。またその中から抽選でそのアーティストのメンバーと会うことも出来るという。チケットの価格は一般のものより高いものの、メンバーを間近で観ることが出来るので、ファンにとっては非常に嬉しいものだと言える。 僕自身、そのアーティストの作品をかなり以前はよく聴いていたが、最近は全く聴いていなかった。街中に貼られているポスターを見て彼らがミュンヘンに来ることは知っていたが、コンサート当日はホールから外に漏れてくる音を楽しもうと言ったくらいにしか考えていなかった。ところが非常に嬉しいことに、Yさんが招待をしてくれた(どうもありがとうございます!)。そしてチケットを購入しに行ったが、僕は彼らの作品を数年間全く聴いておらず、当然新しい曲も知らなかったので、「座席はアリーナか観客席かどちらを希望ですか?」と売り場で聞かれた際に、落ち着いて聴くことが出来る観客席を希望した。 コンサートはオリンピックホール(オリンピアハレ)で行われる。僕は午後8時半の開演時間に合わせて会場へ向かう予定にしていたが、VIPであるYさんは午後5時には会場集合と言うことだった。そして陽が傾き、影が随分長くなってきた午後8時過ぎ、僕はオリンピックホールに向かった。会場入り口に到着した時、僕の想像に反して、その入り口周辺には人の姿がそれほどなく、混雑することなくホール内に入ることが出来た。どうやら熱狂的なファンは、良い場所を確保するために前座のバンドが演奏する前から会場に入っているようだった。また中に入ってみて分かったのは、幾つかある売店でビールを飲んだり、また何かを食している人が多いと言うことだった。 僕は開演少し前に会場に入ったわけだが、僕が入ったあとも、まだ暫くは来場者の姿があった。つまり会場には、みんなが同じ時間帯にまとめてやって来ると言うよりは、数時間に分けてやって来るといった感じだった。僕がホール内に入ると、ちょうど前座のバンドが演奏しているところで、ステージ前にはVIPの人や場所を確保した人達がいるだけで、多くの人はそのバンドの演奏をBGMに、ビールを飲んだり、周りの人と喋っているといった感じだった。 前座のバンドの演奏が終わり、暫く休憩となった。ステージ上でセットが組み立てられている間、観客の方はアリーナへ、観客席へと移動し始めた。アリーナは全席自由なので、前へ前へと観客が移動している。観客席の方はステージに近い場所ほど一杯だったが、僕が購入した辺り、つまりステージから最も遠い場所は、自由に席を選び放題といった感じだった。 午後9時15分頃、会場の照明が突然落とされ、メンバーが登場した。その瞬間、割れんばかりの歓声がホール内に響き、そしてそれまでの静寂を破るかのようにバンドによる演奏が始まった。前座のバンドとは比べものにならないくらいの大音量と振動である。それが身体に慣れてくることには、心地良い響きとなっていた。 ステージ前は非常に盛り上がっているのが、後方から見ても分かり、アリーナの後方では広い空きスペースを利用して踊っている人の姿が見える。観客席でも立ち上がって踊っている人がいれば、僕のように座って静かに音楽を聴いている人もいた。中にはずっとビール片手にホットドックやハンバーガーを食べている、まるでテレビを観ているかのような感じの人達もいた。またカメラでの撮影も基本的に自由なので、多くの人がデジカメや携帯電話で撮影している。こういった自由な雰囲気のコンサートスタイルだと、色々な意味でその時間を楽しめるのではないかと思う。 コンサートの方は午後11時頃に終わりを迎えた。僕自身としては、知っている曲も多く随分と楽しむことが出来た。またコンサートの中身ではないが、アンコールを求める観客が足で床をドンドンドンドンと蹴る、その音が印象に残った。これはオペラでアリアが歌われた後やカーテンコールの時にするものと同じものである。その地響きのような雰囲気は非常に心地良い。演奏だけでなく、コンサートの雰囲気をも楽しむことが出来、今回のコンサートを招待してくれたYさんには感謝感謝である。コンサート終了後にYさんに会った。僕は基本的に椅子に座って聴いていたのに対し、YさんはVIPとして最前列でコンサートに参加していた。言ってみれば、このコンサートを作り上げた一人であるかも知れない。Yさんのその充実感に満ちた表情が印象的であった。
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