やまねこの物語

日記 ミュージカル「ルートヴィヒ2世」

ミュージカルの看板2005年の春頃から街中の広告塔やポスターなど色々な場所で、ドイツ劇場のミュージカル「ルートヴィヒ2世」の看板が見られるようになった。8月1日から上演されるこの演目は、南ドイツ・フュッセンにある劇場のものとは違ってミュンヘン、ドイツ劇場独自の演出である。

僕自身はフュッセン版も観ていないが、ミュンヘンで上演されるなら是非観たかったので、8月のある日、ドイツ劇場を訪れた。ところでこの演目は、上演される曜日によってチケットの値段が違っている。週の前半は安く、逆に週末は週の前半に比べて10オイロ程高くなっている。

僕が訪れたのは週の前半でチケット代も安いことから、人が多いのではないかと予想していたが、実際に劇場内に入って回りを見てみると、約1600席ある客席の大体7割前後の入りと言ったところか、一階席(パルケット)でも後方、両脇は空席があった。

そういえば劇場に入るとき、入り口でサングラスを手渡された。何に使うのか全く分からなかったが、演出が非常に眩しいものなのかも知れない、そんなことを考えながら席に着いた。

ベルが鳴って照明が落ち、舞台が始まった。最初に舞台上に出てきたのは旅行者とそのガイドに扮する人達だった。「ここがドイツ劇場です」と始まって、ガイドが旅行者に向かって「上演中の写真はダメですよ」「携帯電話も使わないでください」と、実際は客席に向けての案内があった。この部分はミュージカルとは直接関係なかったが、そのようにしてカメラや携帯電話の使用に関して案内するのが、バイエルン王ルートヴィヒ2世が現在にもたらした観光面における功績を表しているようで、面白く感じられた。

そして本当の舞台が開いた。内容はルートヴィヒ2世が王になって、パラダイスを求めて城を造り、そして最後にはシュタルンベルク湖で入水自殺するという、実際に入水自殺をしたかどうかは別として、基本的に史実に基づいたものとなっており、王としての彼の一生が描かれている。そして彼を中心にして様々な人物が出てくる。彼の弟オットー、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ、皇妃シシー、大公女ゾフィー、プロイセン宰相ビスマルク以外にリヒャルト・ヴァーグナー、ハンス・フォン・ビューロ、コジマ・フォン・ビューロなども出てきて色々な話しを繰り広げる(ちなみに王「ルートヴィヒ」は、バイエルン訛りで「ルートヴィク」と呼ばれていた)。

舞台の方は約25分の休憩を挟み、約3時間の長さであったが、ミュージカルと言うよりは演劇に近いといった印象を受けた。メロディーがそれだけ印象に残らなかったのだろう。しかしその演劇風ミュージカルの中で王が一人でヴァーグナーのオペラを楽しんでいる様子や城作りに明け暮れている様子だけでなく彼の同性愛的な傾向も示され、また最後に入水自殺するときの、彼がパラダイスを求めて躊躇せずにそのまま湖に入っていったところなど、王の一直線な性格が上手く演じられていた。ただどういったところに彼の魅力があるのか、何故現在メルヘン王としてここまで人気があるのか、そういった点をこのミュージカルから感じ取るのは難しいように思われた。

ところでこのミュージカルの演出において、最も面白いのは演出に使われた映像にあるだろう。上にも書いたが入り口のところで、サングラスを渡される。それを使うのは3度だけで、時間にしてもそれほど長くない。ミュージカルの最初に出てきたガイドの人が舞台に上がり、彼が眼鏡をかける。それが観客も眼鏡をかけるという合図だ。実はこれはサングラスではなく、所謂3D眼鏡と言うもので、これをかけるとそれに合わせて作られた映像が立体的に見えると言うものだ。

この3Dの映像は実に見事に作られていた。1868/69年、レジデンツの屋上に王ルートヴィヒ2世が作らせたWintergarten(ヴィンターガルテン。温室のようなもの)が、見た目は明らかにCGと分かるものの、それでも上手く「復元」されており、彼が作ろうとしたパラダイスを垣間見ることが出来る。一列後ろに座っていた老婦人のグループが、時には歓声を上げる程、3Dの演出は非常に面白く、もう一度これを観てみたいと思わせるものがあった。

そういえば観客のほとんどが年配者だった。僕の前列には中学生くらいの孫(と思われる子供)を連れている老婦人が座っていたが、隣に座る孫に舞台中、「あれがルートヴィクで、あれがシシーで」といった風に、周りに迷惑がかからない程度に舞台の説明をしていた。大げさな言い方かも知れないが、何かバイエルン王国の伝統が受け継がれていく様を見たような気がした。

ドイツ劇場

ドイツ劇場

ドイツ劇場内に展示された胸像など

ドイツ劇場内に展示された胸像など

劇場内に展示されてある舞台のモデル

劇場内に展示されてある舞台のモデル

3Dの眼鏡

3Dの眼鏡

舞台後の挨拶

舞台後の挨拶

夜の劇場

夜の劇場

(2005年8月21日)

 

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