やまねこの物語

日記 フィッシャー=ディースカウのサイン会

2005年7月23日(土)、バイエルン州立歌劇場で上演されたモーツァルト「魔笛」の公演の際に、当劇場の宮廷歌手ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(1925.5.28-)に、彼の80歳の誕生日を記念してマイスタージンガー・メダルが授与された。マイスタージンガー・メダルはニンフェンブルク陶器工場で制作されたもので、バイエルン州立歌劇場から、芸術的、文化的に貢献した人に授与されるものである。これまでに Hans Hotter、Astrid Varnay、Inge Borgk が授与されている。僕はそのメダルが授与された日、プリンツレゲンテン劇場で他の歌手のリーダーアーベント(リートのリサイタル)を聴いていたので、その授与に関して知ったのは翌日の新聞だった。またその様な賞があると言うことさえ知らなかった。

そしてその授与が関係しているのかどうか分からないが、2005年9月3日(土)、マリエン広場にある本屋でサイン会が行われるとのこと。その告知ポスターには、彼に関する本が紹介(宣伝)されてあって、その本には彼の一生、主に歌手としての生涯が綴られているということだった。ただ発売は2005年3月だったので、今回のマイスタージンガー・メダル授与を記念して販売されるといった感じではないようだ(もしかすると今年は80歳ということで、出版、メダル授与など一年の予定として予め決められていたことなのかも知れないが)。

9月3日(土)、僕は知人と待ち合わせて、そのサイン会に行くことにした。17時半から始まるサイン会に向けて、僕は30分以上前に本屋に行って、そのサイン会が行われる場所で様子を見ていた。そこには花が置かれたテーブルがあり、その上に本が積まれている。告知ポスターに載っている本だ。その近くには彼のコーナーがあり、その他の本もあわせて並べられていた。

サイン会は予定よりも少し早く17時20分頃始められた。テーブルの前には既に何人かの人が並んでいる。またこの日は何度も館内放送でサイン会のお知らせがあったので、それを聞いてか、足を止めてその様子を眺めている人達もいた。ところでここで疑問に思ったのは、サインをしてもらう本は予め購入してからサインをしてもらうのか、それともテーブルに積んであるものに先にサインをしてもらってからレジに並ぶのか。自分の感覚としては前者の方が良いように思えたので、先に購入してからサインをしてもらうことにした。先述の知人の方は日本から持ってこられた何枚ものCDを持ってきておられた。やはり本人にサインをしてもらうというのは嬉しいことである。

またそのサインをしてもらう様子を見ていると、中には(おそらく自分の)名前を見せて、本に「誰某へ」と書いてもらっている人もいる。一緒に写真を撮ってもらっている人もいたり、そのサイン会の小さな場所は本屋の静かな雰囲気にはそぐわず、少し騒然とした感があった。ところで先にも書いたが、サインと本の購入、どちらが先かという問題は、見ているとサインをしてもらってからレジに並んでいる人もいるので、結果的にはどちらでも良いようだった。

ところでこのサイン会は予想に反して15分程で終わってしまった。サインを求める人の列がなくなったのである。その後テーブルに積んである本に彼はサインをし始めたが、これらはおそらく本人のサイン入りの本として店頭に並べられるのだろう。そしてサイン会が本当に終わったのかどうか分からなかったが、彼は席を立ちエレベーターに乗って上階へと向かった。このサイン会がこの本屋の近くにある、クラシックを多く扱っているCD屋なら、もっと人が集まっただろうと思われる。その意味では人が少ないのは少し残念な気もした。

僕自身にとってフィッシャー=ディースカウは、CDはもっているものの実際に生の歌を聴いたことがないだけに、目の前にいる人が偉大な歌手という実感がなかったが、サイン会の時、年配の(おそらく)ドイツ人女性だけでなく、若い人が非常に嬉しそうにサインをもらっているのを目にしたとき、今もまだ音楽界を作っている一人のようにも思えた。家に帰って早速本を見てみると、非常に写真が多く、フィッシャー=ディースカウのこれまでの長い歌手人生がそこに凝縮されてあった。この本は彼の「過去」を表現したものであるが、サインをもらった自分にとって、この本は同時に「現在」をも表現している。言い換えれば、そこには彼の「未来」もある。彼の本を見ていると、それが強く感じられた。

サイン会

サイン会

サイン会

サイン会

本にして頂いたサイン

本にして頂いたサイン

 

(2005年9月5日)

 

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