やまねこの物語

日記 日本食レストラン
先日、僕の住むところの横に日本食レストランなるものの店ができた。表にあるメニューを見ると寿司やみそ汁、肉料理など日本食の名前がすらりと並んでいる。お酒も、例えば、ビールだと日本の銘柄がいくつか揃っている。その上、お昼のランチは格安だ。マクドナルドより少々割高なだけである。当然、僕はその店に行った。もちろん昼食だが。店に入るとその店の主らしき人が出てきて丁寧にお辞儀をしてくれた。だが何か雰囲気が違う。壁には龍の絵があって日本というよりは東南アジアな雰囲気だった。店の名前も日本ぽくなくて、なんて読むのか分からない。料理はバイキング形式で自分の好きなものをお皿にとって食べる。味自体は特においしい!というわけでもなく普通だったけれど、だいたいどれも日本で見たことのない料理だった。おまけにちょっと辛い。しかも米は、日本米や韓国米のような米ではなく、日本ではあまり見られない細長い米だった。最初に挨拶をしてくれた店の主らしき人に聞くと彼はベトナム出身とのこと。その上日本語を話せるわけでもなく、また他の従業員もそうだった。

正直なところ、少し複雑な気がした。ちゃんとした日本食が出ていれば、別にどこの国の人が料理してようが構わない。だけど日本食のことを何も知らない(と思われる)人が日本食と称した料理を出すのに抵抗を感じた。ドイツでは結構日本食に人気があるようだ。特に寿司はそうらしい。表に"SUSHI"と書いておくと人はだいたい立ち止まる。もしそのような人がこの店に入ってきて「これが日本食か」と思うと考えるとやはり抵抗がある。やはりちゃんとした日本食を出して欲しい。でもその店は開店休業状態なので、ちょっと安心。自分はつくづく日本人だと改めて思った。

ミュンヘンにはいろいろな国のお店がある。イタリア、ギリシャ、中華、インド、ユーゴスラビアなど。それらの店で食事をするとその出された料理を、その国の料理と思ってしまう。もしかしてその国出身の人はそう思っていないかもしれないのに。といっても美味しければ問題ないのだが。でも僕が日本人だからそう感じるのか、また僕個人の問題なのか、そこらあたりはよく分からない。車や電化製品のように“Japan”が定着すれば、また別のように考えられるのだろうか。でもどちらにせよ、僕は日本人だということを強く感じさせられた。これが愛国心みたいなものだろうか。

話は変わるが、先日ミュンヘンで知り合った台湾の人から食事に招待された。しゃぶしゃぶをするということだった。これは本来台湾にはなく日本人が持ち込んだらしい。でも肉をしゃぶしゃぶするというのではなくて、どちらかというと日本では冬に好まれる「水炊き」や「おでん」のような鍋だった。台湾では年中するらしい。沙茶醤というちょっと辛い香辛料が入った出汁に、よそって食べる。結構美味しい。でも一番驚いたのは、おでんような鍋に肉などと一緒に、切ったトマトを入れたことだった。日本ではまず考えられないと思う。でも台湾の人がいうには「イタリア人もスープにトマトを入れるでしょ」だった。ちょっと違う気もするが。でも最後はうどんのような麺類を入れて終わる。食の文化は面白い。これは日本人が持ち込んだ料理だけど、明らかに台湾料理になっている。これは大陸にはないらしい。こういうところにもアイデンティティーがあるのではないかと思った。

(2000年1月上旬)
 
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