やまねこの物語

日記 チコ

先日、掲示板でも話題が出ていたが、ドイツでは猫をほとんど見たことがない。日本のように野良猫はいないのだろうか。でもドイツでは猫の代わりに犬を見る機会はものすごく多い。電車の中やレストランなど。ドイツに来て最初に驚いたことの一つに、電車の中で犬をよく見ることだ。電車の切符でも「何歳以下の子供何人まで一緒に乗ることができる」とか「犬一匹までは一緒に乗っていい」とか、そんなことが書かれている。犬は電車、地下鉄、路面電車、バスなど様々な乗り物の中でも見ることができる。しかも中にはとても大きな犬の場合もある。ドイツの犬は吠えないよう教育されていて、あまり人に向かって吠えることはない。犬同士なら時々見るが。でも、人に向かってよく吠えたりするような犬は、保健所に連れて行かれるということを聞いた。

犬は電車の中だけでなく、レストランでもよく目にする。ちゃんとおとなしく座っている。実際はそうではないと思うが、ドイツには「子供は犬以下」というような言葉さえある。ドイツの人は子供をレストランへ連れて行くということはあまりない。でも犬を連れて行くことはよくある。犬は家族の一員、パートナーとして扱われている。日本でも家族の一員として扱われているが、ドイツは犬も人間と同じ室内で暮らしていることが多いため、日本より生活を共にするという時間は長い。日本はどちらかというと、番犬の役割も強いと思う。玄関や門のそばで飼われていることもある。でも食べているものはそんなに変わらないと思うけど。

僕の大家さんももう何年間、犬と一緒に暮らしている。大家さん(おじさん)一人と犬一匹で暮らしているのだ。その犬の名前は「チコ」である。日本っぽい。彼らが住むその住まいの一室を僕が借りている。おじさんとチコはいつも一緒に出かける。雨の日も風の日も朝晩散歩している。住まいに帰ってくると、いつも廊下で「ハロー、チコ。ハロー、チコ。なんてかっこいいんだ!」というようなことをやっている。チコを撫でているのだ。

チコは大型犬だ。時々、僕の部屋のドアを開けて入ってくる。後ろ足で立って、前足でドアを開けるのだ。ドアがいきなりガタガタ言い始めて、ギィ〜とドアが開きチコが入って来る。ま、そんな感じで僕もチコと同じ空間で生活している。先日、おじさん一人で外出しなければならない用事があったようで、おじさんが一人で出て行った。チコが出ていかないようにドアに鍵をかけて。でも僕はちょうどそのとき外出中でそのことを知らなかった。部屋に帰ってくると、鍵が閉まっている。時々こんなことがある。そんなときはチコが寂しがらないよう、音楽はかかってるし、電気もついたままだ。それで僕は部屋に入ってチコが外へでていかないよう、鍵をかける。でもこの前は違った。鍵を開けたとたん、いきなりチコが部屋の外へ飛び出した。僕はマンションの4階に住んでいる。チコはよっぽどおじさんが恋しかったのか、一階の入り口まで走っていって、「おじさん!おじさん!」と叫んでいた。(多分)

僕はチコに部屋に戻ってくるよう言ったが、いつもと違って全然言うことを聞かない。僕は食べ物でおびき寄せたりしたけど、こっちを見向きもしない。仕方ないから、そこで5分くらいチコを撫でていたら、いきなり部屋に戻ろうとした。僕はほっとして、チコと一緒に階段を上がっていった。でもチコはただ単に階段を上がっていくのではなくて、踊り場一回ごとに僕の方を振り返る。多分いつも、おじさんとはそんな感じなんだろう。部屋から飛び出して20分間くらいの出来事だった。ま、それで僕は自分の部屋に入って服を着替えて廊下に戻って、チコを撫でてあげました。チコは僕の足(の指)をよくなめる。おじさんが帰ってきて、チコに歩み寄った。チコは嬉しがって、おじさんの顔をいつものようになめていた。

チコ

チコ

 (2000年3月27日)

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