やまねこの物語

日記 バイエルン州立歌劇場の新シーズン始まる

バイエルン州立歌劇場バイエルン州立歌劇場は2006/07シーズンから音楽総監督がズービン・メータからケント・ナガノに替わった。街中を歩けば、至る所でケント・ナガノと「Spiel kann beginnen」というポスターを目にする。広告柱や駅など。またバイエルン州立歌劇場のマクシミリアン通り側、こちらには普段、現在行われている演目やこれから行われる演目のポスターが貼られているが、今、歌劇場は改修工事中でその場所にはケント・ナガノのポスターが何枚も並んでいる。これらの新しいポスターを目にすると、バイエルン州立歌劇場が新しい体制になったことを印象づけられる。

そして新しいケント・ナガノ体制のその最初のコンサートがアカデミーコンサートである。以下の2つの日記は別の場所で書いたものを再編集したものです。

ケント・ナガノのコンサート(ゲネプロ)

大きな声で、ブラヴォーという一声があった。コンサート終了後の挨拶の時だ。9月18日(月)、プリンツレゲンテン劇場でバイエルン州立オーケストラ(指揮ケント・ナガノ)によるアカデミー・コンサートのゲネプロ(総稽古)があった。

コンサート当日、劇場に足を踏み入れると舞台上には既にオーケストラの人々や合唱の人たちがいる。そして指揮台の上には指揮者ケント・ナガノが立っていた。自分にとっては2005年オペラフェストでブリテン「ビリー・バッド」以来、初めてナガノを聴く。

彼は2007年シーズンからバイエルン州立歌劇場の音楽総監督である。この日、彼はベストを着た私服姿だったがそれを見ると、前音楽総監督のズービン・メータとは随分と雰囲気が違っているように感じられる。やはり若さだろうか。メータが暗かったというわけではないが何か明るくなったような気がした。それは新しい時代の幕開けを予感させるものかも知れない。

ところで9月は、本来なら新シーズンが始まっている時期であるが今年はバイエルン州立歌劇場の改修工事がなされているのでプリンツレゲンテン劇場でアカデミー・コンサートが最初に行われる。その後、バイエルン州立オーケストラはヨーロッパ各国へツアーに出る。

そして2007年新シーズン、音楽総監督ケント・ナガノによる最初のコンサートの演目はシューベルト「ロザムンデ」とマーラーの4番である。特に後者はかなり楽しみなプログラムだ。

ゲネラルプローベ。指揮者やオーケストラが私服で、観客がラフな格好という点を除けば、休憩なども
ほぼ全てが本番と同じように進められる。しかし、この日は最初に少し練習があった。劇場内にケント・ナガノの高い声が響く。何度も繰り返されてようやく本番となった。

前半のシューベルト「ロザムンデ」が終わると、休憩になったが舞台上では、また幾つかの点が繰り返し練習されていた。実際の演奏だけでなく、合唱団が立ち上がるタイミングの練習もあった。休憩中だったが、観客席に残っている聴衆から拍手も出ていた。

ゲネプロ後半のマーラー4番の方も同じように少し練習があった。終わった後、劇場内の照明が明るくなってからも更に練習があった。ケント・ナガノは非常に細かく丁寧な音楽作りをしているのが分かる。そういえば彼が演奏中に一度、指揮をアシスタントの指揮者に譲ることがあった。まるでオペラフェスト「王子王女」でファビオ・ルイージがやったように。そしてケント・ナガノは客席に降りてきて、音のバランスなどを確認していた。

本番が終わって、練習になった時点で観客の一部は席を立ったが、自分はそれも観ていたかったので最後まで椅子に座っていた。とにかく生演奏というのが嬉しかった。久しぶりに生演奏を聴いたがこの緊張感や迫力は言葉に出来ないものがある。

今回の演奏はゲネプロだったので、本番では一体どのような演奏を聴かせてくれるか非常に楽しみである。個人的な予想としてはかなりの「ブラヴォー」が飛ぶような気がする。そして多くの人が床をドンドンドンドンと蹴る。ゲネプロを見ているとその様な光景が目に見えてきそうな演奏だった。

 

ケント・ナガノのコンサート

9月21日(木)、夕方外に出ると、非常に眩しい夕陽がそこにはあった。ほんの僅かな間だったが、これ以上ないという、かなり情熱的なオレンジ色だった。その直線的な光に街が照らされていた。

20時開演のコンサートに向けて1時間前の19時頃、会場であるプリンツレゲンテン劇場に向かった。
この日の演目は先日ゲネプロ(総稽古)を聴いたバイエルン州立オーケストラ(ケント・ナガノ指揮)によるアカデミー・コンサートである。

今回の公演は全3公演あり、今日がその最終日に当たる。チケットの売り上げはまずまずといった感じで前日まではチケットが残っていたので、当日劇場で買うことにしていた。しかしその日の朝、ネットでチケットを確認すると、既に完売になっていた。

初日の公演の記事が新聞などに紹介されていた影響かもしれない。その上、プリンツレゲンテン劇場は客席数が1025で、バイエルン州立歌劇場(ナツィオナルテアター)の2101という数の約半分しかない。

完売であったが、とにかく劇場に行くことにした。そこで「チケット求む」をするためである。劇場に着くと、そこには友人の姿があった。数日前から、彼と一緒に聴きに行くことにしていた。チケット売り場では、チケットを予約したものの取りに来ない人のチケットが売り出されることもある。それがあってかチケットは少し残っているようだった。

しかしプリンツレゲンテン劇場は馬蹄形の劇場ではなく半円形のような形の劇場なので、何処の席からでも舞台が良く見え、しかもここの劇場は値段設定が高くなっていると言うこともあって、いつも安い席から売れていく。残っている席でそういったものはなく、高いものだった。

外で「チケット求む」をすると、何人かの人が声をかけてくれた。しかしいずれも最も高い席ばかり。暫くすると一人の女性が「チケットが二枚余っているけど」と声をかけてくれたので、値段を伺うと、非常に手頃なものだったので、迷わず購入することにした。お礼を言って、劇場の中に入る。

先日はゲネプロだったので普段着の人が多かったが今日は蝶ネクタイの人や着飾った人が多く、それがこの公演に対する期待の高さを表していた。この日のプログラムはシューベルト「ロザムンデ」とマーラーの4番。この3公演でバイエルン州立歌劇場の2006/07シーズンが幕を開ける。そして指揮は今シーズンから音楽総監督に就任したケント・ナガノ。今回の公演はそのお披露目的な意味合いもあってやはり話題性のあるものだった。

ベルが鳴って自分の席に着く。暫くすると黒のスーツを着たオーケストラと合唱の人達が入ってきた。それに続いて指揮者ケント・ナガノが入ってくる。沸き起こる大きな拍手。観客の方に向かって一度挨拶をした後、指揮棒を構えた。しかしオーケストラ全員の精神統一を待っているのかなかなか指揮棒は振られない。そういえば前音楽総監督のズービン・メータはとにかく早かった。指揮台に上って
挨拶をしたと思ったら、直ぐに演奏が始められた。

ケント・ナガノのこの間は自分にとっても非常に良い時間のように思われた。数秒間に渡るこの静寂によって劇場内の人々が一つになり、生み出される音楽に集中することが出来る。

まずシューベルト「ロザムンデ」が始まった。前回、ゲネプロで聴いたときは音が非常に堅いものに感じられたが、この日の音は非常に柔らかく聴いていて何度も鳥肌が立つような演奏だった。やはりゲネプロとは緊張感が違うのだろう。

休憩があって後半のプログラム、マーラーの4番が始まった。この演奏に対しては人それぞれの感想が
あるかも知れない。この日の演奏は甘さがそれほど感じられないものだったが、個人的にはこういった
中性的な演奏は聴き手の創造力を高めるのに貢献する気がする。

ところで今回のアカデミー・コンサートは、バイエルン州立歌劇場の音楽総監督がケント・ナガノになって初めてのプログラムである。ナツィオナルテアターは改装中でそのお披露目の場所にプリンツレゲンテン劇場が使われたが、この劇場は歴史を作ってきた場所である。

こけら落としは1901年8月21日、リヒャルト・ヴァーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。その後、この劇場では1917年ブルーノ・ヴァルター指揮によるプフィッツナー「パレストリーナ」、1957年ヒンデミット指揮でヒンデミット「世界の調和」が初演され、クナッパーツブッシュ指揮でシャルパンティエ「ルイーズ」がドイツ初演された。数々の歴史を作ってきたプリンツレゲンテン劇場はケント・ナガノによる新しいバイエルン州立歌劇場の船出に相応しい場所かも知れない。

コンサート終了後の挨拶

コンサート終了後の挨拶

コンサート終了後の挨拶

コンサート終了後の挨拶

 

ケント・ナガノのポスター

ケント・ナガノのポスター

「Spiel kann beginnen」のポスター

「Spiel kann beginnen」のポスター

 

 

(2006年9月23日)

 

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