やまねこの物語

日記 デイジーの死

青い空が拡がっていた。日向を歩けば秋の日差しが非常に眩しく感じられ思わず目を細めてしまう。
しかし日陰に入ると、それまでの日差しが嘘であるかのように暗い世界がそこにはあった。まるで空気そのものが曇っているかのようだった。

お昼過ぎに一度家に帰ってきてネットのニュースを見た。よく見るのはミュンヘンにその中心がある南ドイツ新聞。そしてミュンヘンのページを見ると、そこのトップに「デイジーが亡くなった」という見出しがあり、デイジーの写真が載ってあった。

デイジーというのはヨークシャー・テリアでミュンヘンで最も有名な犬と言われていた。飼い主がルドルフ・モサマーというデザイナーだったからだ。そのモサマーはミュンヘンでも知らない人がいないとニュースで報道される程の有名人だった。

有名人「だった」と言うのは、彼は2005年1月14日(金)、殺害されているのが発見された。64歳だった。死因は絞殺。同性愛者だったモサマー氏と「デート代」でもめた男性が殺害したと言うこと。その後犯人は見つかったが彼の葬儀は、単なる一人のデザイナーのものにとどまらず告別式(聖ルーカス教会)、追悼式典(レジデンツ内王宮教会)、そしてマクシミリアン通りのパレードが全国放送される
までだった。その時、パレードコースになっていたところはトラムなども運休となった。

またバイエルン州立歌劇場で上演されるオペレッタにも彼をもじった人が出てくるなど、文化的にも
非常に存在感があった人物である。彼はいつもデイジーを片手に抱え、その一緒にいる写真が色々なところで見られた。

そしてモサマー氏が亡くなり、その莫大な遺産は愛犬デイジーと彼の運転手に渡ったと言うことだった。そしてこの火曜日、そのデイジーも亡くなった。13歳だった。ネットにはデイジーの写真だけでなく、モサマー氏と一緒にいるときの写真が並んでいた。

モサマー氏のお墓はミュンヘン東墓地にある。モサマー廟という立派なものがあるが、そこにデイジーの
お墓も作られるのだろう。しかし思ったのはモサマー氏が亡くなってからまだそれほどの年月が経っていないにもかかわらず随分と昔のように感じたことだ。

思い起こせば、その時は風が冷たい寒い日だった。雪が積もっていたのは覚えている。空は曇っていただろうか。それとも晴れていただろうか。記憶に中にあるその日の空をたぐり寄せてみた。

(2006年10月25日)

 

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