やまねこの物語

日記 オペラ

僕が部屋を借りるとき、アパートの真上の部屋にはオペラ歌手が住んでいると聞いた。特に僕が借りている部屋のちょうど真上が、その歌手の練習室になっているようだ。というのは防音はしてあるものの(後日、知人に聞くと防音はしていないらしいとのこと)、ピアノの音や発声練習などの声が時々聞こえてくる。部屋から一歩出ると音は聞こえない。やはり真上で練習しているようだ。ソプラノ歌手が住んでいるらしい。僕はドイツに来るまでオペラには全く関心がなかった。日本でオペラというと、みな着飾って「奥様、オホホホホ」といった貴族的世界だと思っていた。

最初ドイツを旅行で訪れたとき、友人にオペラへ連れて行ってもらった。僕は今までオペラを観たことも聴いたこともなく、全くの別世界だったから何をどうしていいかわからない。それどころかオペラとは何かも知らない。日本にいるときは関心がなかったから、特にそれについて知ろうということもしなかった。数年前ある友人がドイツへ旅行したとき、記念にオペラを観に行ったと聞いた。でも友人の話だと、何をやっているかも分からないし、話も全然分からないから、結局その友人は船を漕いでいたらしい。人が拍手するときだけ目を覚まし拍手して。そんなだから、僕の中にはオペラはものすごく難しいものという先入観があった。でも本場で本物のオペラを体験したいという気持ちもあった。

僕は友人にクヴィリエ劇場という小さな劇場に連れて行ったもらった。その時生まれて初めて馬蹄形の劇場を目にして、日本には少ないであろう、その劇場の派手さ、それだけで僕は感動してしまった。オペラの方はというと、オペラを観る前に話のあらすじを読んでいたので、だいたい何をやっているかは理解出来た。でもそのオペラが良いとか悪いとかは分からない。でも話を知ってから行っているので、想像していたよりも見やすかった。寝るということもなかった。一般的にオペラの時間は演目にもよるが大体2、3時間ある。休憩も約30分ある。僕はこの休憩の長さにも驚いた。この休憩時間に普通はみな、劇場内や近場でコーヒーを飲んだり、軽食を食べたりする。

オペラ、何度か足を運ぶうちに少しずつではあるが、その面白さが分かってきた。といっても劇場へ行く前に必ず、話の内容を知ってからでないと行けないけれど。でも話の筋を知っていると、ドイツ語であろうが、フランス語やイタリア語であっても、目で見ていれば舞台上で何をやっているか想像できる。例えば、このシーンで“主役の女性が発狂する”といったシーンでは、観客はその彼女がいかにその感情を上手く演じられるか注目している。僕には歌手の上手下手やテクニック面などは分からないが、ものすごく上手く演じられると、観ているこっちまで気持ちがいいし「上手い!」と思わず拍手をしたくなる。オペラへ何度か行くうちに、そういう楽しみ方が出来るようになった。

いくつかオペラを聴いていると、以外と知っている曲が多いのに驚いた。例えば日本のテレビ番組や、身近なところでは小学校の運動会などでも耳にしたことがある曲だったり。それらを考えると、オペラというものが、全くの別世界だとは感じなくなった。それにオペラといっても喜劇や悲劇など様々なものがある。劇場に行くと、その舞台上の演技だけでなく、照明や大道具にも感心させられる。

ドイツに来て、オペラに関して良いと思うのは、オペラがものすごく身近にあるということだ。ほとんど毎日どこかで何かが上演されている。料金に関しても、さすがに有名な人が出演して、いい演目だったりすると、料金はものすごく高いが、(それでもチケットはすぐに売り切れになるところがすごい。)でも普通のオペラで、値段も高くないところを探せば、それなりに楽しむことが出来る。学生だとチケットは格安で買うこともできる。(立ち見で日本円にして約300円。)それで、劇場へ行ってみると、結構学生らしき人の姿も目に付く。正装やドレスアップしている人の中にジーンズ姿の人が混じっているのだ。当然座るところは別だが、色々な人が観に来ている。

でもみんなオペラを観に来ているので、劇場内で当然、携帯電話を使用している人はいないし(使えば間違いなく追い出される)、例えば、一番の見せ場などでは、みな注目して神経が高ぶっているから、鼻をかむだけでも他の人から睨まれたりする。でも逆に言うとそれだけ熱中しているということだ。それで上手く演じられたりすると、観客は「ブラヴォー!」の嵐になったり、床をドンドン踏み鳴らす。結構な、お年のおばさんも、そのようにやっている。オペラの文化は奥深いと思った。

オペラを何度か観ているうちに、自分の中ではいつの間にか「オペラは着飾るもの」という考え方が薄くなってきた。いい席で観るとき、ちゃんとした服装で行くのは当然のことだが、それでも肩肘張って観に行くものではなくて、もっと気楽に楽しむことが出来るものだと思った。僕の真上に住んでいる人はユリア・カウフマンという人らしい。この人、オペラの年間カレンダーに出てくるくらいの超有名人だと聞いた。先日、仕事の関係でベルリンへ引っ越ししていった。サインでも、もらっておけば良かったなぁ。

バイエルン州立劇場オペラ上演前 

バイエルン州立劇場オペラ上演前

 

ゲルトナープラッツ州立劇場オペラ上演後

ゲルトナープラッツ州立劇場オペラ上演後
満足している人はこの人のように。

 (2000年6月5日)

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