やまねこの物語

日記 オペラ追記

これは日記「オペラ」の追記。

先日、バイエルン州立劇場へ、ベリーニ作「清教徒」というオペラを観に行ってきた。日記「オペラ」でも書いたが、僕はドイツに来るまで全くオペラに関心がなかったので、当然、このオペラも知らないし、またベリーニという人も知らなかった。で、このオペラにはエディタ・グルベローヴァという女性が出演するらしい。当然、その人の名前も聞いたことがない。でも友人に聞くと、その人が出るオペラは演目によらず、どれも発売されてすぐ完売になるらしい。グルベローヴァというソプラノ歌手は当代一の歌手でプリマドンナだそうだ。

僕はオペラというものに少しずつ興味を持ち始めてきていたので、このグルベローヴァという人が出るオペラを是非観てみたい気になった。それでチケットを売っているところに聞くと、残念ながらチケットは一枚も残っていなかった。それからチケットセンターという別のところに聞いてみると、高い席が数枚残っていた。このチケットセンターはチケットが発売されるとき、何枚もまとめて購入しているところだそうだ。というのは、ミュンヘンに来た旅行客がホテルからチケットを予約したりする場合のために。ミュンヘンの色々な高級ホテルにはオペラのチケット予約サービスがあるらしい。そのようなとき、このチケットセンターを利用するそうだ。

でもこのチケットセンターでチケットを買うとその値段は高くなる。僕が買ったのも1.7倍の値が付いていた。本来のチケット売り場で観たいオペラのチケットが手に入らない場合、このチケットセンターを利用する人もいるらしく、そこでもチケットを買う競争がある。僕はその値段の高さに躊躇しながらも、グルベローヴァが出るチケットを購入した。

いざ、バイエルン州立劇場へ行ってみると、劇場建物横の当日券売り場の前には人だかりが出来ている。チケットは既に完売なので当然、当日券は売られていないが、この人たちは、チケットを予約だけして取りに来ていない人のチケットが売り出されるのを待っているのだ。その人たち以外に何十人もの人が「チケット買います」という札やボードを持って立っていた。それほどまでして、みんなグルベローヴァを観たいのだ。

ところでオペラは同じ演目でも演出によって随分と中身が変わったりするということを聞いたことがある。以前僕が観たオペラの一つに、ものすごく現代的な演出のものがあった。そのオペラはモーツアルトの結構有名なオペラだったのだが、その時の演出は歌っている人の映像を大きなスクリーンでアップにして見せたり、ビデオカメラを何台も使ったりして、さながら舞台中継なような感じだった。当然舞台上にはカメラマンが動き回ったりしている。

そのモーツアルトのオペラが終わったとき、「ブラヴォー!」という人もいれば「ブーブー」とブーイングしている人もいる。昔ながらの舞台を観たい人にとっては、その演出は歌を聴くのに邪魔なものであったかもしれない。「歌がものすごく良くても、演出が良くない」と感じた人が多いように見えた。僕はまだオペラを見始めた最初の頃だったので、「ブーブー」オペラもあるのかと感心した。オペラといえば「ブラヴォー!」しかないと思っていたから。観客はその時の感情を素直に出している気がした。

で、グルベローヴァが出演する「清教徒」の方はものすごい熱気だった。グルベローヴァだけでなく、それ以外の出演者の方も、すごい迫力があった。例えばグルベローヴァ(扮する女性)が狂乱する場面でも、思わず舞台に見入ってしまったりした。オペラ自体もアッという間に終わってしまったと感じるくらい、すごく人を惹きつける舞台であった。

当然オペラが終わったあとの「ブラヴォー」の数もものすごい。それだけでなく、みんな床をドンドン踏み鳴らしているから、劇場全体が、まるで高波に襲われるような、何とも言えないものすごい雰囲気に包まれていた。この日は当代一のオペラ歌手が出るということで、着飾ってきている人が多いように見えた。僕は3階席に座っていたのだが下を見る限り、特にピンク色の服を着ている人が多かった。オペラが終わってみんなが拍手をしているとき、それらの派手な衣装も揺れていた。

舞台の幕が下りて、カーテンコールの時も、その「ブラヴォー」嵐はすごかった。普段なら主役の人が2、3度顔を出すだけで、照明がついて拍手は終わり、みな帰っていく。でもこの日は違った。何度も何度も顔を出さなければならないくらい拍手が続いた。劇場の照明がついても、まだみんな拍手をしている。あまりに長く続いたためか、舞台の後片づけをやっている最中にもかかわらず幕まで開けられた。本来オペラが終わると幕は開けられないと聞いた。オペラが終わったときの感情を濁さないように普通は後かたづけの舞台裏を見せたりしないらしい。この日は異例だった。それほど観客は盛り上がっていた。

このグルベローヴァという人が当代一のオペラ歌手でプリマドンナといわれるのも納得した。チケット代は高かったけれど、それだけ出しても損はないオペラだった。でも、これからはプログラムをチェックし、出来るだけ発売当日にチケットを買いに行こうと思った。

オペラ終了後 

オペラ「清教徒」が終わったときの舞台挨拶
中央がグルベローヴァ

 

カーテンコール

カーテンコール
出演者と指揮者が何度も出てきた

 

舞台後片づけ中

舞台、後片づけ中も拍手が続き、
異例の開幕

 (2000年6月12日)

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