日記　オペラフェスト

ミュンヘン・オペラフェスト Muenchner Opern-Festspiele 、これはオペラシーズンが夏休みに入る前の期間に行われるもので、バイエルン州立劇場主催の催しだ。このオペラフェストが終わるとオペラは休みの期間になる。今年（2000年）のミュンヘン・オペラフェストは第125回目で6月27日から7月31日まで続けられる。この期間は普段の時より、有名、一流な人が出演し、チケットの値段も2ランクくらい上がり、オペラやコンサートが色々な場所、バイエルン州立劇場、プリンツレゲンテン劇場、クヴィリエ劇場や教会などで催される。

超一流の人が出演するとはいえ、チケットの値段がかなり高くなるので、僕にはそう簡単にチケットを買うことが出来なかった。しかしこの演目リストの中にどうしても観たいオペラがあった。ヘンデル Haendel のリナルド Rinaldo だ。といっても僕はそのストーリーも知らない。ただカウンターテナーが聴きたかった。カウンターテナー、僕は詳しく知らないので、うまく書けないが、裏声のような高い声を出して歌う男性歌手のことだ。そのヘンデルのリナルドには数人のカウンターテナーが出演する。一度も生で聴いたことがなかったので、是非聴いてみたかった。それにその中には知っている名前があった。Yoshikazu Mera 米良美一だ。（敬称略）

米良美一は宮崎駿監督の映画「もののけ姫」で一躍有名になったカウンターテナーで、今回このリナルドでバイエルン州立劇場にデビューするとのことだった。会場はプリンツレゲンテン劇場。この劇場は元々ヴァーグナーのために創られた劇場で今日、理想的な劇場建築とされているところだ。バイエルン州立劇場のような馬蹄形をした劇場ではなくて、日本のコンサートホールのように一方向に観客席がある。ただ日本のよりは角度があって、何処の席からでも舞台が見える設計にされている。オペラフェストのチケットは一月から売り出されるのだが、この劇場での演目は何処の席になっても見えるということで、比較的安い席から売れていくと聞いた。僕がチケットを買いに行ったときは、非常に値段の高い席しか残っていなかった。しかし観たいオペラだったのでチケットを購入することにした。

このヘンデルのリナルドの舞台は中世の十字軍の話だ。キリスト教徒と回教徒の戦い。僕は最初、中世ということで鎧などを身にまとった人たちなどが出てくるものと期待していた。が、始まったオペラは中世とは全く関係ないものだった。話の展開はオリジナルと当然同じだが、演出は全く独自なものにされていた。非常にモダンな演出だ。キリスト教徒側の女性がチアガールになったり、エルサレムがキャバレーになったり、また宇宙人や3メートル以上ある、ぺこちゃんのような半ズボンをはいた巨大な人形が出てきたりした。期待していたものとは違ったのだが、それ以上に面白かった。まるで「ドリフの8時だよ、全員集合！」みたいなノリだった。

演出がやりたい放題やっていても、やはり歌は上手かった。ただ残念なことに米良美一は出演していなかった。オペラフェストのリストにも名前は載っているし、期待していたのだが、当日出てこなかった。会場で偶然出会った知り合いの方がプレスの方に聞きに行ってくれたのだが、話によると2週間前までの練習には来ていたらしい。しかしそのあと日本に帰ったとのことだった。彼の役はキリスト教徒側の将軍だったのだが、その日は別の人がやっていた。おそらく他の日もこの別の人がやっているのだろう。準備期間が2週間しかなかったのに、この人はよく出来たと思う。米良美一が出演しない理由は一切わからないが、ただ外見的な面からいえば、失礼だがこの別の人の方が将軍だったと思う。カウンターテナーは初めて聴いたのだが、皆声が高く、オペラ全体が軽い雰囲気になっていた。中世のような重々しさはあまり感じられなかった。ただ米良美一のカウンターテナーも聴いてみたかったが。いずれにせよ、この日のオペラはものすごく楽しいオペラだった。

オペラフェスト、チケットの値段も高く有名な人ばかり出演するので、観に来ている人の服装も派手だ。この劇場には立ち見席や安い席がないので、ジーンズ姿の人はいないし、とにかくみな着飾っていた。これこそ「奥様、オホホホホ」的な世界だと思った。といってもオペラはそのような人たちのためだけに、あるのではない。バイエルン州立劇場前のマックス・ヨーゼフ広場では"Oper fuer alle" （"全ての人にオペラを"）と題された入場無料のオペラコンサートも催された。このイベントもバイエルン州立劇場の総監督ズービン・メータ氏が指揮を振っている。入場無料のコンサートといっても手を抜いてはいない。

　（2000年7月27日）

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