やまねこの物語

日記 歯医者

2000年6月11日、日曜日のことだった。ちょうど街の中心部ではミュンヘン市創設記念祭なる催しが行われていた。その時露店で食事をしているときに、僕の歯に詰めてあった何かが取れてしまった。何が取れたかは分からない。でも歯の中から何かが取れたような気がしただけで痛みもなかった。ガリッと音を立てた、そのものを僕は飲み込んだらしい。でも痛みは全くなかったのでそのまま放って置いた。そのことをもうすっかり忘れてしまった、同年8月27日、またしても日曜日、今度はその歯に詰められてあった詰め物が完全に取れてしまった。食事中に歯から外れ、歯には穴が開いていた。でも痛みは全くなかった。

痛みが全くないので歯医者へ行くかどうか迷った。このまま放って置いて虫歯がひどくなり、痛みがでてくるのもイヤだけど、海外で歯医者へ行くということに不安があった。海外で歯医者に行くとかなりの費用がかかる。ミュンヘン市の場合、ビザの延長のためには歯医者がカバーされている保険に必ず入っていないといけないので、費用の面はそれほど気にならなかった。だけど海外で医者に行くということに対し、言いようのない不安があった。どんな治療をされるのだろうか、専門用語ばっかりでてくるのだろうか、などなど。

それでガイド的な本を色々読んでいると、「歯医者は普通、人の紹介でないといけない。初診の人を診てもらえるかどうか分からない」「予約は必ず取らなければならない」と書かれてある。ますます不安になる。それ以外の本を読んでいると、ミュンヘンでは日本語で診てもらえる歯医者があるとのこと。ただ診察日は金曜日と土曜日のみだった。僕の歯の詰め物は日曜日にとれたから、まだ日にちはある。それまでに悪化するかもしれない。友人から聞いたところによると、「日本語で診てもらえる歯医者」というのは、ただ単に通訳の人が付くというだけで、医者自身が日本語を話すというわけではないらしい。診てもらう日までに歯が悪化するとイヤだし、歯の治療に早いに越したことはないから、ドイツの歯医者に行こうと決心して電話帳で近くの歯医者を探した。

近くには歯医者が何人かおられた。当然どの歯医者がいいか分からない。一番近いところから電話をすることにした。一番の心配は初診でもいいかということだった。電話が繋がった。電話口にはおばちゃんが出た。 「(僕)やまねこと申します。予約を取りたいのですが。」 「(おばちゃん)やまねこさん、初めてですか?」 「(僕)はい。初めてです。」 「(おばちゃん)では明日の〜時でいいですか?」 「(僕)はい。」 というような感じで電話はあっけなく終わった。 初診がどうとか、そんな心配は必要なかった。でももしかすると、それはこの歯医者だけかもしれないし、他の歯医者だとまた違っているかもしれない。とりあえず、歯医者へ行くことができるので安心した。

翌日、歯医者へ行く前から緊張していた。日本と違って何を聞かれるか分からないから、一応、使っている歯磨き粉の名前まで覚えていった。歯医者へは歩いて5分くらいだ。その歯医者が入っているアパートには直ぐ着いた。表札を見てみると「女性歯医者〜」と書かれてあった。どうやら女性の先生のようだ。緊張しながら、呼び鈴を鳴らし部屋に入っていった。するとそこには、おばちゃんが一人いて「やまねこさん、こんにちは」と出迎えてくれた。声から判断すると昨日電話に出た、おばちゃんのようだ。と思っていたら、実はこの方が歯医者の方だった。受付もご自身でなされているらしい。

「(歯医者)どうされました?」 「(僕)詰め物がとれました。」 「(歯医者)痛いですか?」 「(僕)痛くないです。で、埋めてください」 というような日本の歯医者と全く変わりはなかった。緊張がほぐれてきた。他の患者は誰もいなかった。診察台に案内された。診察台に横になるとき、僕はなぜか靴を脱いだ。日本では靴を脱いでいたかどうか覚えていないが、無意識に靴を脱いでしまった。歯医者にはこの行為が受けたようだ。靴は脱がなくて良いと言われ、また履き直して横になった。一体何年使っているのだろうか、というような古い治療器具が揃っていた。年季が入っている。

治療が始まった。「(歯医者)麻酔して欲しいですか?」 「(僕)え!? 麻酔ですか?お願いしますです。」 普通、日本の歯医者なら患者に何も言わずに麻酔をすると思う。少なくとも僕が今まで通っていたところはそうだった。それで麻酔をしてもらって、歯の穴を埋める治療が始まった。歯医者の方はその年齢にも関わらず、大変機敏な動きをされていた。約20分後、治療は終わった。長いようで短い時間だった。全部の治療が終わったようで、次に来る日を尋ねると、埋める治療が終わったから、もうその必要はないと言われた。口を濯いで診察台から起きあがった。日本と全く同じだ。

歯に詰め物をするという治療は終わったが、保険でいくらまでカバーされるか、治療にいくらかかるなど判断して、保険内で収まるなら、歯にかぶせ物をしようとのことだった。それを確認しにもう一度行かなければならないのだが、歯の治療自体はあっけなく終わった。場合によっては歯の治療はまだ続くかもしれない。でもひとまず終わった。緊張もなくなっていた。歯医者の方も大変親切でよかった。ただ麻酔の効きがすごい。体の大きなドイツ人にあわせているのか、麻酔の効く範囲が広かった。治療してもらった右側の歯の回りだけでなく、右の鼻も全く感覚がなく、4時間ほどその状態が続いた。でもとにかく歯の治療が終わったことが嬉しい。

後日

もう一度歯医者へ行く日になった。今回は治療はなく説明だけだから、気楽な気持ちで行くことが出来た。診察室に行くと歯医者のその先生が前回と同じように出迎えてくれた。最初は「説明だけ」という予定だったが、前回、歯の治療のX線写真を撮るのを忘れていたと言うことで、レントゲン室へ案内され写真を撮った。その写真を保険の請求時に提出しなければならない。結局この日は、X線の写真を撮っただけで、5分くらいで全てが終わった。「説明は次回」ということになった。

ということでまた後日

また歯医者へ行ってきた。今度は説明を聞きに。結局は保険会社に問い合わせなければ分からないとのこと。もし歯にかぶせ物をするとものすごい金額になる。見積もりを出していただいた。というわけでただいま、保険会社に問い合わせ中。

結局

保険会社への問い合わせの結果、かぶせるのは保険外と言われた。
 

 (2000年9月8日)

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