やまねこの物語

日記 引っ越し

というわけで、こちらは「家探し」に続く日記です。

新しい家が決まってから引っ越しをするのだが、本当は8月1日に引っ越しして入居したかった。だけど、大家さんの都合で引っ越しは10日以降と決まった。それまでは友人宅にお世話になった。引っ越しといってもただ荷物を運ぶだけではいけない。というのはドイツの一般的な家(住居)には何もない。「何もない」というのは、つまり台所一式、カーテンレール、照明などのことである。空間があるだけで部屋には何もないのだ。台所もガス台(電気台)や水道設備など何もない。ただ壁から水道管がニョキッと出ているだけである。照明も天井からコードが出ているだけで電球はついていない。家探しの時、家を見学に行くと、そのような何もない家がいっぱいあった。

ところで、台所は運良く、大家さんが真っさらな一式(システムキッチン)を入れてくれるとのことだ。水道設備やレンジ、冷蔵庫まで全て取り付けてくれた。これは非常に運が良かった。聞いたところによると、ドイツ人は引っ越しの時、台所一式を持って移動するのが普通らしい。日本のようなシステムキッチンが最初からついているということは少ないらしい。ただ、人に部屋を貸すとき、付いている方が家賃を高くできたりもするとのことだ。だから僕が借りたところには一式があった。といっても、その一式が入るのが8月9日だったから、引っ越しが10日となった。

今回、電動ドリルをつかって、色々な作業をした。カーテンレールの取り付け、照明器具の取り付け。照明器具は自分の好きな物を購入できるのが良かった。デザインが良いのは当然高いが、お店でそれらを見て回るのも楽しかった。これら電動ドリルの作業は友人に手伝ってもらった。壁や天井に穴を開けるとき、かなりのコンクリート片が出る。穴あけをしている先の所に掃除機を当ててもらう必要があるからだ。壁や天井に穴を開けるのに、最初は不安と緊張で一杯だった。やり直しが出来ないから。しかも今まで一度もやったことがない。

ドイツ人はこのような電動ドリルを使っての作業が結構好きなようだ。ドイツの日曜大工センターには、家族連れや若いカップルが大勢いる。僕が以前、世話になっていたおじさんも、しょっちゅう模様替えをしていた。そのたびに電動ドリルを使用していたのだ。日曜大工センターに行けば、かなりの数の電動ドリルが置いてある。ドイツに長く住む日本人も、だいたいの人はその作業を経験していて、自分用の電動ドリルセットを持っている人も少なくないようだ。それで知り合いの方から電動ドリルを借りて作業を行った。

作業は、かなりの騒音になるため、平日午後6時までしかする事が出来ない。最初、土曜日の午後にその作業をして、いきなりマンションの管理人に怒られてしまった。自分でカーテンレールをつける作業は不安がありながらも、結構面白かった。照明器具の取り付けもそうだった。ただブレーカーを落とすのを忘れて、友人が感電したのには驚いた。バァーンと大きな音を立てて、あたりが焦げ臭かった。友人はしばらく、ぼーっとしていたが無事だったので良かった。色々な失敗が今後の教訓になっていく。

照明器具を取り付け、カーテンもつけた。台所も使うことが出来る。ようやく、生活が出来るようになった。が、家具がない。家具、ドイツでは「売ります・買います」専門の新聞(Kurz und Fuendig)で中古を探すというのが結構多い。友人の所もほとんどそれらで集めた家具だ。物を大切にして、使える物は使うという、今の日本にはない考え方だと思った。だから「売ります・買います」専門の新聞があったりする。ドイツは粗大ゴミが少ないと聞いた。「捨てるくらいならあげてしまおう」という考えが多いようだ。しかも捨てるのにはお金がかかるし、欲しい人に持っていってもらう方が楽だからだ。その新聞には電話番号も載っていて、家探し同様、欲しい物を見つけると電話をして、その物を見に行く約束を取る。これも早い者勝ちだ。実際に自分の目で見て、自分の好みと違ったり、想像していたものと違う場合は、「自分の部屋には合わない」と言って断ればいい。その物を見に行ったとき、なぜそれを売ろうと思ったかなどを聞く。

今回、僕はベット、ベットマット、小さいタンス、鏡つき洋服タンスをイタリア人から、玄関の靴入れをトルコ人から、洗濯機をドイツ人から購入した。イタリア人から購入した物は本当に丁寧に使われていた。ドイツ人夫婦から購入した洗濯機は、14年前のモデルで、今はもう存在しない型だ。でも、そのドイツ人の方は説明書から当時の領収書まで、ちゃんと残されていて、しかも大変綺麗にされてあった。当時の値段は1200マルク強。今は当時のレートが分からないので、日本円でいくらくらいかは分からない。しかし当時としては最新型だ。それを今回、80マルクで購入した。今のレートで4000円弱。見た目は古いが実際に使えている。

その「売ります・買います」専門の新聞はかなりのページの新聞で、色々な物が出されている。壊れている場合は、その箇所なども書かれている。例えば、「ブレーキが利かない車」や「背もたれが壊れた椅子」など。今回僕が購入した洗濯機には、そのようなことは何も書いていなかった。これらの壊れた物は無料か格安な値段で取り引きされる。例えば旧東側から入ってきた人たちは、新しい車を買う変わりに、ただで車をもらってきて自分で直したりすると聞いた。といっても車検に通るくらいまで、完全に直さなければならないが、それでも新車を買うより断然安いし、ドイツに来る旧東側の人は自動車工などが多いと聞いた。ドイツという国、色々な国から来ている人も多い。出稼ぎできている人もいる。それらの人にとっては、家具など、新しいに越したことはないが、必ずしも新しい必要がない。使えればいいのだ。ほとんどの留学生にとっても同じことが言える。ドイツ人も「職人の国ドイツ」と言われるだけあって、自分で壊れた物を直すのが多いと聞いた。日本だと、物にもよるが、壊れた物を修理をするくらいなら、新しい物を購入した方が手間がかからない、となると思う。

実際、ドイツ人にとって、自分で日曜大工的なことをするのは、当然のことのようだ。普通、引っ越しなどで家を出るとき、自分で壁の塗り替えなどをしなければならない。僕もこの家を出るときは、壁の塗り直しをしなければならない。今僕が借りている新しい家は、大家さん(女性)が自分でフローリングをひいたり、ドアの大きさの調整など、金槌やノコギリを持って自分でされた。家探しをしているとき、家の見学で、自分で家の修理をしている人をけっこう見かけた。そういえば友人は家具の色塗りなどを自分でやっていた。日本だと普通そこまではしない。僕も今回の引っ越しで、普段見ることが出来ない“ドイツ”を体験できたと思う。

天井の照明器具

部屋の天井に取り付けた照明器具。廊下もこのようなタイプの物を取り付けました。

 

洗濯機

今回購入した14年前の洗濯機。問題なく動いています。

 (2000年9月8日)

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