やまねこの物語

日記 2005年ミュンヘン映画祭

2005年6月25日(金)から7月2日(土)までミュンヘン市内のガスタイク(市民文化センター)、フィルム博物館、3つの映画館で、第23回ミュンヘン・フィルムフェストが開催された。これはドイツ最大の映画祭の一つで、色々な国の作品が上記の場所で午前9時から午前1時頃まで、ほぼ一日中、上映されるものである。昨年も僕は幾つかの映画を観た(昨年の日記はこちら。別ウィンドウで開きます)。今回上映される作品は約200作品あるが、今年は日本スペシャルと言うことで、40作品以上の日本の作品が上映されるというので、非常に楽しみだった。

映画祭のチケットはガスタイクにある特設窓口か各映画館で購入出来る。時間帯や子供向き、大人向きといった対象によって価格は違っているが、チケット代は2オイロから8オイロまでと手軽に観やすいものとなっている。最も高い8オイロのものは19時半から20時半に始められる作品であり、この時間帯は仕事帰りの人も多く、また普段は観られないような珍しい作品を観られるとあって、売り切れになることが多かった。僕自身もこの時間帯のものを幾つか観ようとチケット売り場に並んだが、何度か購入出来ないことがあった。

しかし運良く最後のチケットとということもあった。今回観た幾つかの作品の中で一番印象に残ったのも、その作品であった。「A STRANGER OF MINE / 運命じゃない人」(2004年、内田けんじ監督)で、日本語上映英語字幕というものだった。日本の映画なので日本人の観客の数も他に比べて多かったが、それでも10人もいなかったように思われるので、観客のほとんどがドイツ人だと言える。

面白かったのは、客の反応である。普通、日本語上映で外国語字幕が付く場合、笑いが起こるのに多少の時間的ズレがあることが多い。しかしこの映画ではほとんど同時に観客から笑いが起こっていた。つまり言葉だけではなく、映像が可笑しかった。と言ってもこの映画はコメディーではない。個人的に思うのは、この作品は映画の最も良い部分を引き出した、映画ならではの表現力を持った作品かも知れないと言うことである。これがもし小説ならば、ここまで魅力的な作品にならなかっただろう。

上映後に監督の挨拶及び観客からの質問があったが、その際に「あなたの次の映画はいつ上映されますか?」という質問に、この日の観客の反応が集約されていると思う。ところで今回の映画祭では何人かの監督挨拶があった。僕が観たものでも、「TOKYO LULLABY / 東京夜曲」(日本1997年)の市川準監督、「MUSUMEDOJOJI / 娘道成寺〜蛇炎の恋〜」(日本2003年)の高山由紀子監督が挨拶をされていた。また監督以外でも映画の出演者が挨拶をすることもあった。「LIEBE AMELIE」(ドイツ2005年、Maris Pfeiffer監督)の主役 Maria Kwiatkowsky である。彼女は今年のミュンヘン映画祭における、ドイツ映画の主演女優賞に選ばれた。

僕が観た作品で上記の「A STRANGER OF MINE」以外で印象に残った作品は「ICH WAR 19」(東ドイツ1969年、Konrad Wolf監督)である。内容は、ドイツ・ケルンで生まれたドイツ人が8歳の時に家族でモスクワに移住して、1945年に彼はソ連軍の陸軍少尉としてドイツに帰ってくるというものである。旧東ドイツで制作されたこの映画は終戦間際のドイツの話しであり、監督の実体験に基づた作品となっている。

疑問に思ったのは、この映画が何故1969年に制作されたかだ。その頃といえば、チェコスロヴァキアで自由化政策が推し進められた、いわゆる「プラハの春」(1968年)があり、それに対してソ連を中心とした当時の東欧諸国がチェコスロヴァキアに軍隊を送り込んだ時期である。その後ソ連の書記長ブレジネフのもと、「ブレジネフ=ドクトリン」が発表されて、モスクワを中心とした東欧共産圏の団結強化が確認された。

しかしこの映画「ICH WAR 19」は19才の青年の話であって、それほど政治的な作品でもなく、旧東ドイツ国民に大きな影響を及ぼしたとは考えられない。話しの中でモスクワに移住とあったが、それがソ連、共産主義の素晴らしさを暗に示していると言ったくらいだろうか。しかしいずれにしても映画の映像だけでなく、映画制作のその背景などを考えてみるのは面白いと思われる。 

ところで昨年の映画祭では、会場であるガスタイクやそれぞれの映画館が、緑色の光線によって繋がれていた。これは非常に印象に残るものであったが、短所として光線ゆえに夜しか照らすことが出来ないということが挙げられる。今年はそれを意識してか、光線ではなく歩道にバイエルンカラーである青色のラインが引かれた。これなら何時でも、また如何なる天候でも結ぶことが出来る。そして昨年の光線が一直線だったのに対し、この青いラインは、道が曲がれば同じように曲がり、ずっと続いているような印象を得た。「結ぶこと」と「続くこと」、映画が色々な関係を、そして過去・現在・未来を結ぶ、一つのきっかけとなれば、と思う。

フィルムフェストの看板

フィルムフェストの看板

ポスター

ポスター

プログラムとチケット売り場

プログラムとチケット売り場

ガスタイク内

ガスタイク内

ガスタイク内

ガスタイク内

ガスタイクとオープン・エアー

ガスタイクとオープン・エアー

フィルムフェストの看板

フィルムフェストの看板

会場を結ぶ線

会場を結ぶ線

会場を結ぶ線

会場を結ぶ線

会場を結ぶ線

会場を結ぶ線
映画のタイトル、上映時間、場所が書かれてある

オープン・エアー

オープン・エアー

高山由紀子監督

高山由紀子監督(中央)

内田けんじ監督

内田けんじ監督(左)

 

(2005年7月5日)

 

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