やまねこの物語

日記 オペラフェスト 2005年を振り返ってみて

2005年6月27日(月)から7月31(日)の間、バイエルン州立歌劇場を中心に行われたオペラフェストを個人的に振り返ってみると、その約一ヶ月は一人のオペラファンにとって非常に充実した期間でまさしくフェスト(お祭り)であった。2005年1月にチケットが販売された時点で僕は14枚のチケットを購入したが、7月になると直前もしくは当日にチケットを購入したりして、結果的にリーダーアーベントを含めて(7月だけで)27公演観ることが出来た。

オペラフェストのパンフレット今年のオペラフェストのチケットに関して、僕自身は出演する歌手によって直ぐに売り切れになりそうなものや、好きな演目のものは1月に購入したのに対し、既に何度も上演されている演目のものは、売り切れにならないだろうと見込んで、また自分の予定も分からないので、7月までチケットを買わないでいた。

チケットの販売が開始されたとき、予想されていた通り、José Cura が歌うヴェルディ「オテロ」はあっという間に売れ切れた。逆に予想外だったのはヘンデル「アルチーナ」である。Vesselina Kasarova が歌うのでそれなりに人が入るとは思っていたが、最も安いチケットでも41オイロと安くないので、チケットも売れ残り、当日でも購入出来るのではないかと思われた。ただ一度は観てみたかったので僕自身は1月の販売時に一枚だけ購入しておいた。

新演出のこの作品は演出が Christof Loy で、彼は Opernwelt 誌2003年の優秀演出家に選ばれた人である。バイエルン州立歌劇場ではヘンデル「サウル」やドニゼッティ「ロベルト・デヴリュー」を手がけ、それらを見ても分かるように非常にシンプルな演出をする。特にバロック・オペラによく見られる、最近の斬新な、またモダンな演出が多い中で、彼の作品は非常に落ち着いた空間を感じさせるものになっており、今回の「アルチーナ」も写真ではロココ風のものが紹介されていた。

その演出が好意的に受け止められたのか、また主役アルチーナを歌うのが Anja Harteros だからか、今回の5回ある公演は全て、上に書いた値段にもかかわらず、あっという間に売り切れてしまった。場所がプリンツレゲンテン劇場(1025席)で、バイエルン州立歌劇場(2100席)に比べて座席が少ないのも影響していると思われるが、とにかく(個人的な)予想に反して直ぐに売り切れてしまった。

バイエルン州立歌劇場(一般的に)チケットが完売と分かっていても当日劇場に行けば、来られなくなった人のチケットを売っている人がいて、それを購入出来る可能性があるので、「アルチーナ」の際、僕は何度か開演一時間以上前に歌劇場に行って「チケット求む」をしたが、同じことをしている人が30人以上いて、結局購入することが出来なかった。実際に自分が購入した日の演奏を聴いてみると、もう一度聴いてみたくなるような作品で、また非常に完成度が高いものになっており、開演前の劇場前で「チケット求む」をしている人が多いのも頷けた。

ところでオペラフェスト前半はイタリアオペラが中心でチケットは非常に良く売れていたが、後半の演目はチケット販売が始まった時点では、それほど売れ行きが良くなかった。しかし実際に7月中旬を過ぎると、そういった残席が目立っている演目も徐々に売れ始めた。歌劇場の宣伝によるものだけでなく、例えば休暇シーズンに入ってオペラを観る余裕が出来た人や、またこのフェストが終わると約3ヶ月バイエルン州立歌劇場はミュンヘンで公演しなくなるので(休暇と日本ツアー)、それを寂しく感じた人がチケットを買い求めたのだろう。結果的に、全く舞台が見えない聴くだけの席も売れ切れてしまう「完売」や「ほぼ完売」といった状態になった。だから僕もチケットを予め購入していない幾つかの演目では、開演一時間以上前に歌劇場に行って「チケット求む」をして何とかチケットを購入することが出来た。

陽気な表情をするMarcelo Alvarezそういえば今年のオペラフェストは、今まであまりなされていないと思われる、少なくとも僕は体験したことのない、サイン会が開かれることが多かった。僕自身はこれまでサインというものに、それほど関心がなく、コンサートやリサイタル等で公演後にサイン会があっても、もらわずにそのまま会場を後にすることが多かった。

しかし今回はサイン会などサインをもらえる機会が多かったので、何度もサインをもらった。サインをもらいたいと思わせるような公演がそれだけ多かったのだろう。もちろん過去のものが良くなかった公演と言うわけでは決してないが、バイエルン州立歌劇場歌手の方が「オペラフェストは、(フェストと言うことで)全員気合いが入っているから、良い演奏になる可能性が高い」と言っておられたように、良かったと思わせる公演が本当に多かった。

いずれにしてもサインをもらえると、やはり嬉しい。サインをもらうと、その公演がより印象に残り、また一瞬でもその人の身近に立てたことで、(その歌手は自分にとって)気になる存在になり、今後も応援したくなる。また嬉しいことに、サイン会の時にカメラを持っていると、こちらからお願いする前に「写真をどうぞ」や「一緒に写真を撮りましょうか」と言ってくれる歌手もいて、なお印象深い公演になることがあった。そして同じ人から何度もサインをもらっていると、向こう側からこちらを見つけて声をかけてくれることもあり、それも嬉しいことの一つであった。

サイン同時に、サイン会はその日の公演の感想を、そしてオペラを観たあとの興奮を歌手、指揮者本人に直接伝えることが出来る機会でもある。大袈裟なことかも知れないが、興奮を直接伝えることが出来ると、その出演者と同じ時間・場所を共有していた感がして、自分もその空間を作り出した一人のようにも思えてくる。

オペラを観ただけでも興奮しているのに、サインをいただくだけでなく、中には一緒に写真を撮っていただいたりすると、さらに興奮した気持ちになるが、その中には夢に2度も見たサイン会があった。自分のことではあるが、よほど嬉しかったのだろう。

ところで7月31日(日)のヴァーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が終わったあと、州立歌劇場歌手の方の案内の元、歌劇場のシーズン打ち上げパーティーに参加させていただいた。そのパーティーが行われた場所の直ぐ横には、その直前まで使われていた「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の舞台セットがあり、それを見られただけでも非常に嬉しく感じられた。

会場には多くの歌劇場関係者が集まっていて、自由に会食を楽しんでいた。暫くすると州立歌劇場の劇場総支配人 Sir Peter Jonas が前日使われたグノー「ファウスト」の舞台セットである列車に乗り、簡単な挨拶を始めた。その中にあった「今年のオペラフェストはこれまでで最も成功したものだった」という話しが印象に残った。カーテンコール(公演後の挨拶)の長さが、これまでの記録を破り歌劇場新記録を樹立したとのこと。7月20日(水)のブリテン「ビリー・バッド」で22分間の長さがあった(これまでの最高は(おそらく数年前の)「トラヴィアータ」の21分間)。それ以外に今年のオペラフェストのカヴァッリ「カリスト」でもカーテンコールが20分続いたのこと。その話しに歌劇場関係者も多いに盛り上がっていた。そして挨拶は「次は日本で会いましょう!」という言葉で締めくくられた(バイエルン州立歌劇場の2005/06年シーズンは日本から始まる)。

その挨拶のあとはまた普通のパーティーになった。僕は一緒に行った友人や先述の歌手の方、その他の歌手の方々、知り合いの舞台衣装の人達と会話を楽しむことが出来た。また(見知らぬ)舞台製作の人とも話が多いに盛り上がり、結局終電で帰ることになってしまったが、それは非常に楽しい時間であった。途中、劇場総支配人に声をかけて、簡単な挨拶をしてサインをいただいた。また5月に彼の隣でオペラ(「カリスト」)を観ることが出来たことに対するお礼や、今回のオペラフェストの素晴らしい公演に対するお礼をさせていただいた。それに対して彼も日本語で何度も「どうもありがとうございます」とお辞儀をする姿がとても印象的だった。

ところで今回のオペラフェストでは色々な小さな出会いがあった。お互い名前も知らないが、何度も劇場で目にすることにより、挨拶や会話をするまでになった人達である。ミュンヘンに住む日本人だけでなく、日本からこのフェストが目的で来られている人、日本や韓国で活躍されている歌手、イタリアで演出をされている韓国人など、またサインをもらうときに毎回目にするドイツ人の方々など、舞台を観ること以外にも色々と楽しむことが出来た。その他、友人や知人などにも大変お世話になり、自分なりのオペラフェストを多いに楽しむことが出来た。オペラの舞台が一人で出来ないのと同じように、自分もまた色々な人に支えられていると思った2005年のオペラフェストであった。


追記

2005年7月5日に次の人達がバイエルン州立歌劇場の宮廷歌手 Kammersänger になった。Kevin Conners(今回のオペラフェストで歌たのは「オテロ」「運命の力」「スペードの女王」「サウル」「ビリー・バッド」「ニュルンベルクのマイスタージンガー」), Vesselina Kasarova(「アルチーナ」), Paolo Gavanelli(「リゴレット」), Martin Gantner(「スペードの女王」「ビリー・バッド」「ロメオとジュリエット」「カリスト」「ファウスト」)である。今回のオペラフェストで、僕は少なくとも一回はサインをもらったりした人達で、嬉しく感じられた。これからの活躍が非常に楽しみである。

ちなみに今年のオペラフェストで歌った人で、バイエルン州立歌劇場宮廷歌手の称号を持つ人は次の人達。Angela-Maria Blasi(「ロメオとジュリエット」)Edita Gruberova(「ロベルト・デヴリュー」)Felicity Lott(リーダーアーベント)Marjana Lipovsek(「ファルスタッフ」)Gerhard Auer(「運命の力」「魔笛」「ファウスト」「ニュルンベルクのマイスタージンガー」)Alfred Kuhn(「魔笛」「ルル」「ニュルンベルクのマイスタージンガー」)Kurt Moll(リーダーアーベント、「運命の力」「魔笛」)Ulrich Reß(「ファルスタッフ」「ビリー・バッド」「魔笛」「ニュルンベルクのマイスタージンガー」)Jan-Hendrik Rootering「ニュルンベルクのマイスタージンガー」)Hermann Sapell(「スペードの女王」「ニュルンベルクのマイスタージンガー」)

また今年のオペラフェスト(37日間74公演)に、過去最高の延べ82.200人が訪れたとのこと。来シーズン、来年のオペラフェストが今から楽しみである。
 

打ち上げパーティー

打ち上げパーティー
左には「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の舞台セットが見える

挨拶をする劇場総支配人

挨拶をする劇場総支配人
 

打ち上げパーティー

打ち上げパーティー

劇場総支配人のサインとボールペン

劇場総支配人のサインとボールペン
 2005年オペラフェストのパンフレットにサインをいただいた。
左のボールペンは、今年のサイン会で最も活躍したボールペン。
このボールペンで何度もサインをいただいた。
(バイエルン総理府でいただいたボールペン。)

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(2005年8月1日)

 

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