| 船着き場から神殿までは階段と坂道を登っていかなければならない。所々急な部分があり、例えば老人や足の不自由な方にとっては非常に歩きづらい道かも知れない。この日は予報では雨だったが、曇っていたものの雨は降らず、もし雨が降っていれば更に歩きづらい道になっていただろう。階段を上がっていくと、時々木々の間から神殿が見え隠れてして、興奮に似た気持ちから更に足が速くなっていった。神殿を見て分かるのは、その建物が非常に急な斜面の上に建てられているということだ。建設当時は近くに大きな街があったとはいえ、その建設が容易なものではなかったことが想像に難くない。
友人と「もう少し」と声をかけ合いながら上がった。神殿の建つ丘の上に到着すると、その神殿が丘から大きくせり出しているのが分かった。丘の上に建つというよりは、空中に浮いているようにすら感じられる。急な坂を上ってきたせいか、神殿そばを吹き抜ける風が非常に心地よく感じられる。
神殿内部への入り口はドナウ川に面した側にある。そのためには神殿後方の階段(8段)を上がって柱が並ぶ回廊を半周しなければならない。個人的には、この「半周回らなければならない」というのが印象に残った。簡単に入り口に入れるわけではなく、わざわざ回らなければならないのが、非常に演出的であると思われる。ただもしかすると、昔は後方から回ってくる必要がなく、川側からそのまま入ることが出来たかも知れない。というのは正面の階段には柵がされ、現在利用出来ないようになっている。いずれにしても左右対称の作りとなった正面の大理石の階段358段を上っていくことは、更に演出的な気がする。神々がいる神殿に一歩ずつ近づいていくという気にさせられるに違いない。
ドリス式の神殿の大きさは全長66,7m、幅31,6m、高さ20mとなっている。ドリス式とは古代ギリシャの一民族の名前で、彼らが用いたスタイルを指す。また切り妻にある彫像はミュンヘンの彫像で馴染みのあるシュヴァンターラーの作品であるが北側、南側両者とも幅21m、高さ3mあり、北側のものでも、その制作に8年の年月が費やされた。それらはナポレオンからの解放と9世紀の戦争を表現している。
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