ところでここで問題が一つあった。最も早い電車に乗ってやってきたが、ザールから隣町のケルハイムへ行くバスは調べると約1時間待ちということだった。これは予め分かっていたことだが、だからといってバスにあわせて電車を遅らすことも出来ず、とにかくザールにやってきた。「乗り換えが非常に不便だ」と友人から伺っていた通り、確かに不便である。それは駅を出て尚更強く感じられた。駅前は非常に狭く、バス停の看板が寂しく立っているだけで周囲にお店も見あたらなかった。バスがなければタクシーでも可能だろうと思っていたが、そのタクシーも一台もない。
そこでDBドイツ鉄道のインフォメーションに向かった。インフォメーションといっても、そこは旅行代理店なども営業している場所だった。正確には旅行代理店がドイツ鉄道のインフォメーションを兼ねているといった感じだろうか。そこでケルハイムへ歩いていくとどれくらい時間がかかるか伺った。インフォメーションには二人の女性がいて、手前の人が「大体10分か15分くらいかしら」と教えてくれた。行き方を聞くと、とにかくまっすぐに行くとドナウ川に出る。そこにある橋を渡ったところに船着き場がある、ということだった。歩いて15分ほどなら一時間バスを待つよりも良い。その様に考え歩いていくことにした。
インフォメーションで伺ったように一本道を歩いていった。途中、面白そうな風景があると立ち止まって写真を撮った。田舎だったからか通りを歩いている人には一人も出会わなかったが、工場や作業場から、こちらに手を振ってくれる人達の姿があった。のどかな風景の中をのどかに歩いていった。僕達は「船着き場まで約15分で到着出来る」という歩き方をしていた。もし何キロ、何十キロを歩かなければならないとしたら、決してその様な歩き方をしていなかっただろう。あまりのんびりせず、まだまだ続く道のことを意識して先を急いだに違いない。
しかし15分ほど経ってもドナウ川は見えてこない。ドイツ人の歩くスピードは違うのかな、とそんなことを意識しながら歩いていくと、庭先で仕事をしている人がいたので「船着き場に行くにはこの道で良いですか?」と伺った。船着き場、ドイツ語で「ハーフェン」という語を使ったが、その作業している人は「それだったらザール駅前に行かなければならないよ」と言う。もう一度、更にもう一度聞いてようやく話が通じた。彼は「ハーフェン」ではなく「カフェ」と勘違いをしていた。「ハーフェン」への道は確かにあっているらしい。彼にしてみれば、そこから船着き場まで歩いて行くという考えが思い浮かばなかったのかも知れない。もしかするとそこから船着き場までは近くないのかも知れない。そんな考えが僕の中に思い浮かんだが、道が正しいなら歩いていけば着くだろう。そう考え更に進んだが、ドナウ川が見える気配が一向にしなかった。そういえば歩き始めた時に教会の鐘の音が聞こえたが、またここでも聞こえ既に30分歩いているのが分かった。ちょうどその時、後ろの方で車のクラクションが鳴り、僕達の横に一台の車が止まった。
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