やまねこの物語

日記 オペラフェスト2006
14)脇役と「フィガロの結婚」

2006年7月19日(水)、13時過ぎにイタリアレストランに向かった。小さなオフ会で参加者は日本人6人だったが、それぞれの出身地も北から南まで様々で、例えば言葉の問題など色々な話を聞くことが出来、非常に楽しい時間だった。その後、バイエルン州立歌劇場のオペラ、モーツァルト「フィガロの結婚」を観に行くという友人達と歌劇場近くで会う。

オペラ「フィガロの結婚」は、チケット発売(2006年1月)が始まっても直ぐには売り切れにならなかった。これまで何度も上演されている演目で、また配役的にも新しいものがないといったことが、その理由に挙げられるかも知れない。自分もこのオペラのチケットを購入していなかった。しかし夏休みで旅行者が多い時期なので最終的には数週間前には売り切れとなっていた。

先の友人達と共に、自分も歌劇場に向かった。窓口でチケットが余っているか伺うと、分かっていたことだったがやはり売り切れと言うこと。それで白い紙に「チケット求む」と書いて、歌劇場前で売ってくれる人を探すことにした。同じように探している人の姿も多い。それを見てか定価の倍の値段で売ろうとする人も現れた。その人は安くても1,5倍で売ろうとしていたが、見ていると誰も彼からはチケットを買おうとしていなかった。

それにしても、19時前にもかかわらず、日差しがまだ強く、立っているだけでも汗をかくような暑い天気だった。19時開演の約20分ほど前、チケットを売っている人を見つけて運良く歌劇場の中に入ることが出来た。この日、自分はオペラを観るという予定がなかったのでジーンズ姿だった。歌劇場の中に入るとやはり着飾っている人が多い。

19時少し過ぎにオペラは開演した。指揮を見れば、メータは珍しく座りながら指揮をしている。このオペラはいつも彼が振っているが、これまではどうだっただろう。ところでこの日の演奏を振り返ってみると歌手陣を含めて、好演と言えるものだった。しかし何故か、特に前半は観客が盛り上がらなかった。アリアの後の拍手も形式的にあるだけで、熱狂的というものではなく、客席と舞台の間に何か目に見えない幕があるような感じがしていた。

このオペラは真っ白い壁の部屋の中という演出(壁そのものが白いだけでなく、照明によって白く明るく照らされていた)なので、客席の方までその白い光が届き、普段は真っ暗の観客席の様子も少し分かったが、客席を見てみると扇子や紙などを使って扇いでいる人が多い。天気予報では今年一番の暑さになるかも知れないと言っていたが、盛り上がりのなさは、その暑さが影響していたのかも知れない。また「フィガロの結婚」は例えばヴェルディの作品のような音楽的盛り上がりがあるわけでもない。対話の中に音楽が挟まれたという音楽劇のスタイルなので尚更、盛り上がりに欠けたのかも知れない。

その盛り上がりのなさは、休憩後、後半になっても続いていた。しかしその雰囲気が変わったと思った瞬間があった。裁判官役のケビン・コナーズが出てきた時だ。彼は役上、どもりながら台詞を繰り返した。それが観客の笑いを誘い、そこから観客が舞台に一気に近づいた気がした。

ところで今回のオペラフェストではバイエルン州立歌劇場の宮廷歌手の称号を持った人が何人か歌っている。グルベローヴァ、ヴァルトラウト・マイヤー、カサロヴァ、トーマス・アレン、ペーター・ザイフェルト、マッティ・サルミネン、パオロ・ガヴァネッリ、そしてクレジットされていたにもかかわらず先日引退を発表したクルト・モルなど世界的にも名前が知られている人達である。そしてその宮廷歌手の中にケビン・コナーズとウルリヒ・レスという名前がある。彼らは主に準主役かそれに次ぐ脇役を歌っている人達である。

バイエルン州立歌劇場には脇役を専門とする何人かの歌手がいる。脇役といっても準主役の時もあれば、それに準ずる役の時もあり、オペラの中では非常に重要な位置にある。特にイタリアやドイツオペラになると、彼らの重要性は更に増し、彼らがいるからこそ、主役の人達も自分の役に集中出来るのではと思う時がある。

その脇役の中でも先程名前を挙げたケビン・コナーズとウルリヒ・レス、オペラを観ていてこの二人の名前を見ない日は無いというくらいに、色々なオペラに出演している。今回のオペラフェストではヘンデルなどバロックオペラが多いので彼らの出番は思った以上に少ないが、彼らのこの歌劇場におけるレパートリーの数を調べてみると、ケビン・コナーズは15作品、ウルリヒ・レスが20作品歌っている。そして今日から来シーズン終了までに彼らが歌う公演数を数えてみるとケビン・コナーズ60公演、ウルリヒ・レス61公演ある。その数を目にすると、彼らが如何に重要な位置にいるか分かる。

それぞれの役の中には、まじめな役だけでなく、おもしろおかしく演じなければいけない役があるなど、様々なものが要求されている。上手い歌だけでなく、上手い演技が求められる。彼ら無くしてオペラは成り立たないかも知れない、もちろんそれは誇張しすぎかも知れないが、貢献度なども考慮すると、宮廷歌手の称号も頷ける。

今日見た「フィガロの結婚」でも彼らは歌っていた。今日の役ではケビン・コナーズの演技が、遠くにあった観客の意識を舞台に向けさせた。主役の歌手陣だけでなく、そういった彼らの存在を意識してオペラを観るとまた別の角度からオペラを楽しめるかも知れない。

公演後の挨拶

公演後の挨拶
 

 

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(2006年8月6日)

 

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