やまねこの物語

日記 オペラフェスト2006
15)「フィデリオ」

昨日から非常に蒸し暑い。気温も30度を越えている。19時からバイエルン州立歌劇場でベートーヴェン「フィデリオ」がある。開演一時間程前に歌劇場に向かった。その時点で何人かの人が「チケット求む」をしていた。18時半頃になると、その数も更に増え、見たところ、今年のオペラフェストでは最も多くの「チケット求む」が出ていた。

演目的と言うだけでなく、配役的にみても今回の「フィデリオ」は揃っている。ヴァルトラウト・マイヤー、ペーター・ザイフェルト、マッティ・サルミネン、ウーハ・ウーシタロとヴァーグナーの演目で揃うような歌手陣である。

指揮はメータ。この日も座りながら指揮をしていた。そのためかどうかは分からないが、前半は演奏も観客も盛り上がりに欠けていた。何処か演奏の方に集中力が欠けている。少し眠気を覚えたので休憩の時、コーヒーを飲んだ。外を見ると雨が降ったようだ。気温が少し下がっている。

休憩後もそれほど期待をしていなかった。ここで初めて、監獄に繋がれているフロレスタンを歌うペーター・ザイフェルトが出てきた。彼の第一声を聴いただけで眠気が吹っ飛んだ。声の大きさだけでなく迫力や巧さ、声のつやなど、それまで薄暗い雰囲気だった歌劇場に潤いがもたらされた気がした。思わず笑ってしまった。

もちろん声に出して笑ったのではない。そして何かが可笑しくて笑ったのではない。凄すぎて笑ってしまったのだ。彼の声はそれまでの歌劇場の雰囲気を大きく変えた。

オーケストラもそれを肌で感じたのだろうか。オーケストラの奏でる音が一気に変わった。メータの指揮も非常に熱がこもっているようなものに変わった。そうなると観客の方も黙っていない。幾つものブラヴォーが飛ぶ非常に盛り上がった公演となった。

最後のカーテンコールでも歌手陣とメータは何度も舞台に出てきて観客の声に応えていた。その中でも最も大きな拍手をもらっていたのはフィデリオ役ヴァルトラウト・マイヤーとペーター・ザイフェルト、指揮者メータであったが、その中でもペーター・ザイフェルトの存在感は非常に大きかった。そしてカーテンコールが終わり、観客もほとんどいなくなった中で、ペーター・ザイフェルトが舞台上にひょこっと出てきて、まるで通行人のように、しかし笑顔で一人、舞台を横切っていく姿が印象的だった。

「フィデリオ」の旗

「フィデリオ」の旗
 

公演後の挨拶

公演後の挨拶
左より、ザイフェルト、マイヤー、メータ。

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(2006年8月6日)

 

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