やまねこの物語

日記 オペラフェスト2006
16)最後の「アリオダンテ」

相変わらず30度以上の暑い日が続いている。とにかく日差しが強い。そんな中トラムに乗ると中は蒸し風呂のようになっている時がある。ある停留所で2人の男性が乗ってきた。

よく見るとそのうちの一人は演出家ユルゲン・ローゼだった。「ノルマ」「ドン・カルロ」などを手がけているが、単に演出だけでなく、舞台、照明、衣装なども総合的に手がけている演出家である。彼は間違いなくバイエルン州立歌劇場で最も影響力のある演出家だろう。そういった彼が普通にトラムに乗ってくるのが以外だった。

そういえば以前、指揮者アイボア・ボルトンを地下鉄のホームで見かけたこともあった。思わず手を振ってしまった。有名人であっても舞台を降りると、一般人と同じである。今思い返すと、街中で色々な人を見た。スーパーのビニール袋を持って歩くホセ・クーラ、夜のフィクトァリエンマルクトを歩くグルベローヴァなどなど。

演出家ユルゲン・ローゼがトラムを降りた。自分も同じ停留所で降りた。バイエルン州立歌劇場前である。今日のオペラはヘンデル「アリオダンテ」。今回の公演がこの演目の最終公演で、指揮はボルトン。こちらも今シーズン最後の指揮である。

演出はデビット・オールデン。これまで何度か「受けが良くない」演出家と書いた。彼は個人にスポットを当て、舞台の空間が無駄になっていることが多い。しかしその中で唯一(かも知れない)例外がこの「アリオダンテ」である。これは鏡を多用し、また舞台セットもロココ風である。現代版ロココ様式といった感じだろうか。バロックオペラという表現にぴったり合うような作品である。

またこれも、これまで何度か書いているが、今年のオペラフェストは新演目を除いて、ほぼ全てが一演目一公演となっている。その状況では練習も完全ではなく、ほとんど全ての演目がぶっつけ本番となっている。それゆえ、中には実力の全てを出し切れていない演目もあった。

今までを振り返ってみると、ボルトン指揮の作品が比較的好演だったように思える。そしてこの「アリオダンテ」。18時半、ボルトンの歯切れの良い指揮で幕が開いた。30分の休憩を2度挟み、23時頃までオペラは続いた。

結論を書けば、この公演は今回自分が観た作品の中では1、2を争う程に完成度の高い作品だった。カーテンコールも普段の倍以上の時間続いた。とにかく何度も何度もブラヴォーが続いた。これほどブラヴォーが出た作品は思い返してみてもほんの僅かしかない。そして注目していた演出家オールデンが出てきた時も非常に大きなブラヴォーがあった。「オールデンだからブーイング」ではなくて、良い作品には素直にブラヴォーが出る環境が素晴らしい。このことが自分には嬉しく感じられた。

歌手に対する好みは別として、歌手陣のバランスも良く演奏も最後まで緊張の糸が切れなかった。多くのブラヴォーの声が示すように多くの観客にとっても希に見る好演だったのかも知れない。カーテンコールの時、出演者は舞台上でワイングラスを持っていた。この演目はこれが最後である。これで終わりである。それが尚更、演奏を熱くし、音楽をもり立てたのかも知れない。

「アリオダンテ」、最後だと思うと寂しいものがある。今シーズンで最後という演目が幾つかあるが、その中でもこの作品こそ、長く残していって欲しいと思う作品だった。カーテンコールの時に出てきた出演者の顔はどれも輝いて見える。正面を見る出演者のその表情がこの公演の完成度の高さを示していた。

「アリオダンテ」の旗

「アリオダンテ」の旗
 

公演後の挨拶

公演後の挨拶
 

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(2006年8月6日)

 

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