2006年6月28日(水)、バイエルン州立歌劇場にてシェーンベルク「モーゼとアロン」でオペラフェストが始まった。オペラフェストの最初の公演が新演目作品である。州立歌劇場の正面階段にはスポンサーや有名人が来るのか赤絨毯が敷かれ、数台のテレビカメラがあった。
1923-1937年に作曲されたこの作品に対して、以前、州立歌劇場の方が「この作品は世界一と自負している歌劇場があえて挑戦する作品」と言っておられた。というのは作曲したシェーンベルク自身、この作品は音楽的、物理的に上演が不可能だと考え、上演されることを意識せず作曲したからである。
十二音技法の総決算とされるこの作品に対して歌手陣ににも高いレヴェルが要求される。主役であるモーゼはほとんど歌がなく、語りである。オーケストラもそれぞれがソロを弾くような演奏でそれらが全て立体的に絡み合っている。
合唱においても、歌う合唱と話す合唱とあり、その数は100人を越える非常に大規模なものである。そこに数多くの、セリフのない演技だけの人達、バレエの人達などが舞台上に立つ。舞台のスペースも必要となってくる。
シェーンベルクは元々カトリックだったがプロテスタントに改宗したあと、ユダヤ教徒になった。ちょうどナチスが政権を獲ったころである。旧約聖書の「出エジプト記」を元に彼自身が台本を考えた。彼にとっては上演というよりも、信仰と宗教に対しての作品を創ることの方が重要だったのだろう。
今回の公演後、ホテルVier
Jahreszeitenで行われたプレミエパーティーに参加させていただいた。 その中で歌劇場総支配人ペーター・ヨーナス卿が「『モーゼとアロン』は最後にどうしても実現させたい公演だった。他の歌劇場の助けを借りず、上演出来たのを誇りに思う」と挨拶をした。「モーゼとアロン」は幾つかの歌劇場において公演されたことがあるが、大抵の場合、例えば合唱団の数を補うために、別の歌劇場に協力を求めている。
それに続いて音楽総監督ズービン・メータも「今回の公演の成功は、自身のミュンヘンにおける最頂点の一つ」と挨拶をした。その言葉が示すようにオペラフェスト初日の公演は盛大な拍手とブラヴォーが出る非常に熱い公演だった。
実際の上演を意識せず、何処までも作品の意味を追い続けて作曲された「モーゼとアロン」。シェーンベルクが作り出したその世界を体験して、シェーンベルクはやはり時代に名前を残した音楽家だということが改めて感じられた。 以下の写真は全て2006年6月28日に撮影したもの。
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